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AIが新しい販売チャネルになる~EC担当者が知っておきたい「エージェンティックコマース」

「買い物に行く」のが人ではなく、AIになり、検索窓にキーワードを打ち込むのではなく、「これ買っておいて」と手元のAIに頼むだけで商品選定から購入までが完結する時代が、すぐそこまで来ています。しかも、これは将来構想ではありません。SalesforceやShopifyをはじめ、生成AI各社はすでにエージェンティックコマースの実装や共通規格の整備を進めており、EC事業者にとっては「いつか対応する技術」ではなく、「今から備えるべき変化」となりつつあります。

SalesforceのNRF2026現地レポートによれば、ChatGPT上で毎日実行される約25億件のプロンプトのうち、買い物に関連するものは2.1%(約5,250万件)に達するといいます(米Publicis Groupeの基調講演で示された数値)。商品との出会いが、検索やSNSから生成AIへと移り始めているのです。この変化を先に理解した事業者から、次の販路をつかんでいくことになるでしょう。

本稿では、ECやデジタルマーケティングに関わる方に向けて、世界で急速に広がる「エージェンティックコマース(Agentic Commerce)」について、共通規格UCP、SalesforceやShopifyの動向を交えながら、分かりやすく解説します。

エージェンティックコマースとは

エージェンティックコマースとは、AIエージェントがユーザーに代わって、商品の選定から購入、決済、配送管理までを自律的に行う、新しい購買体験のことです。これまでのECでは、人が検索し、比較し、購入を判断していました。しかし、エージェンティックコマースでは、その役割をAIが担います。ユーザーは欲しいものや条件を伝えるだけで、AIが最適な商品を探し、購入までを完了します。

「検索」から「おまかせ」になったことで、何が変わるのか

例えば、「30代向けで予算3万円以内、防水のジャケットを探して」と伝えるだけです。AIが条件に合う商品を探し、比較し、注文まで済ませてくれます。人は自分で探すのをやめ、AIに任せるようになるのです。

エージェンティックコマースの概要

「サイト内の店員」と「買い物を任せるAI」

エージェンティックコマースには、大きく2つの形があります。1つは、自社ECサイトにAIエージェントを導入する形です。AIが優秀な販売員のようにユーザーと対話しながら、ニーズに合った商品を提案し、購入を後押しします。もう1つは、ユーザー自身が利用するAIに買い物を任せる形です。ChatGPTやGemini、CopilotなどのAIが、好みや過去の購入を踏まえて複数のECを横断的に比較し、最適な商品を選んで購入まで代行します。

なぜ今、急速に広がるのか

背景にあるのは、購買行動の大きな変化です。Salesforceによると、2025年のホリデー商戦では、AIが世界のオンライン売上の約2割(2,620億ドル)に影響を与えたといいます。さらに、AI経由でECサイトを訪れたユーザーは、SNS経由と比べて約8倍の確率で購入につながるとされています。AIは商品のおすすめ役にとどまらず、新たな集客チャネルとして存在感を高めています。

ユニバーサル・コマース・プロトコル(UCP)とは

AIが複数のECサイトを横断して商品を探し、購入まで進めるには、ECごとに異なる仕組みでは対応できません。AIとECが同じルールでやり取りできる「共通の言葉」が必要になります。それが、ユニバーサル・コマース・プロトコル(以下、UCP)です。

UCPはなぜ重要か

UCPは、異なる企業やシステムが、商品情報や注文、決済のデータをやり取りするための共通ルールです。例えるなら、商取引のための共通言語です。AIとの対話を標準化するMCP(Model Context Protocol)が「AIの会話の共通言語」だとすれば、UCPは「AIとECをつなぐ商取引の共通言語」にあたります。

UCPが定義しているのは、商品検索だけではありません。商品情報の取得、在庫確認、カート作成、本人確認、決済、注文管理まで、購買に必要な一連の流れを共通仕様として定めています。AIエージェントはUCPに対応した事業者と同じ方法で接続できるため、事業者ごとに個別連携を作り込む必要がなくなり、一度UCPに対応すれば、さまざまなAIから利用される可能性が広がります。GoogleもUCPを「AI時代の商取引の共通言語」として位置付けています。

UCPとは

誰が、どう進めているのか

UCPは2026年1月にGoogleが主導して発表され、Shopifyやウォルマート、Etsyが共同で参画しました。VisaやMastercard、Stripeなど20社以上が賛同しています。

UCPに対応すると、ユーザーはGoogleのAI ModeやGeminiとの会話の中でそのまま商品を購入できるようになります。しかもEC事業者は販売主体としての立場を維持しながら、顧客との関係やブランド価値を手放す必要はありません。また、UCPはMCPやA2A、決済規格AP2とも連携し、AIが商品を探し、購入を完了するまでの一連の処理を支える基盤として設計されています。

なお、対応地域や提供条件は各社のサービスによって異なります。日本国内での利用可否や具体的な提供時期については、各社が公開する最新情報を確認してください。

事業者にとって何が変わるのか

これまでAIチャットサービスとECを連携するには、各サービスに合わせた実装や運用が必要でした。そのため、新しいAIサービスが登場するたびに対応コストが発生し、普及の妨げにもなっていました。UCPでは、共通プロトコルに対応することで、AI ModeやGemini、将来的には他のAIサービスを含む複数のチャネルへ展開しやすくなります。

また、GoogleはUCPの重要な考え方として、EC事業者がMerchant of Record(販売主体)であり続けることを掲げています。AIを経由して商品が購入されても、顧客との関係やブランド体験は事業者が維持できます。販路を広げながら、自社の顧客接点を失わずに済むことも、UCPが注目される理由の1つです。

動き出すプラットフォーム、SalesforceとShopify

エージェンティックコマースはすでに実装の段階に入り、世界の主要プラットフォームが主導権を争い始めています。その中心にいるのが、SalesforceとShopifyです。両社は異なるアプローチを採りながらも、AIが買い物をする時代を見据えて機能の実装やエコシステムの整備を進めています。

2社の異なる出発点

両社の違いを一言で表すと、Salesforceは「自社サイトでAIが接客する仕組み」から、Shopifyは「AIに商品を届ける仕組み」からエージェンティックコマースに取り組んでいる点です。Salesforceは、AIが顧客と対話しながら商品選びや購入を支援する体験を強化しています。一方、Shopifyは、UCPなどを活用してAIが商品情報を取得しやすい環境を整え、さまざまなAIサービスから商品を購入できる基盤づくりを進めています。

アプローチは異なりますが、目指しているゴールは同じです。人が検索して商品を探す時代から、AIが商品を選び、購入を支援する時代へ向けて、両社はそれぞれの強みを生かして取り組みを進めています。

Salesforce Agentforce Commerceで「自社のAI店員」を

Salesforceが目指しているのは、自社ECサイトに「AI店員」を配置することです。顧客が欲しいものを自然な言葉で伝えると、AIが接客を担当し、商品選びから購入までを一貫してサポートします。中核となるのが「Agentforce Commerce」です。顧客との会話をもとに、商品検索や比較、在庫確認、配送案内を行い、そのまま購入まで案内します。さらに、ECサイトだけでなく、店舗、注文管理、POSとも連携することで、オンラインとオフラインを意識させない購買体験の実現を目指しています。

2026年6月24日には、Agentforce Commerceの大型リリースを発表しました。B2C向けの買い物を支援する「Shopper Agent」、B2Bの発注を支援する「Buyer Agent」、商品管理や販促業務を支援する「Merchant Agent」が一般提供となり、接客からバックオフィス業務までAIが支援する世界観が現実のものになりつつあります。

さらにSalesforceは、自社サイトの体験だけで完結するのではなく、ChatGPTやGoogleのAIサービスとの連携も進めています。AIとの会話の中から商品を見つけ、そのまま購入へ進める仕組みを整えることで、自社ECに加え、AIチャネルからの集客や販売にも対応しようとしています。

また、ChatGPTとの連携は2026年7月、Google SearchのAI ModeおよびGeminiアプリとの連携は2026年夏に一般提供が予定されています。Salesforce公式は、提供状況は地域や契約内容によって異なるとしているため、日本で利用できる機能についてはSalesforceの最新情報を確認してください。

Shopify AIチャネルへの「販売の入口」を標準化

Shopifyが目指しているのは、「AIに商品を見つけてもらい、そのまま購入してもらえる環境」をつくることです。これまで検索エンジンやSNSが商品の入口だったように、これからは生成AIが新たな販売チャネルになることを見据えています。

その中核となるのが、Shopify CatalogとUCPです。Catalogによって商品データをAIが理解しやすい形で構造化し、Googleと共同で策定するUCPによって、ChatGPTやGemini、CopilotなどのAIエージェントが商品情報を取得し、購入まで進められる環境を整えています。さらに、Agentic Storefrontsでは、チャット画面を離れることなく商品を見つけ、そのまま購入できる体験の実現を目指しています。

2026年に公開されたSpring '26 Editionでは、この構想を大きく前進させました。対象となる商品はShopify Catalogへ標準で登録される仕組みとなり、開発者はUCPやCatalog APIをセルフサービスで利用できるようになりました。また、画像検索やテキストと画像を組み合わせた検索、商品URLからCatalog上の商品を特定するLookupなども提供され、AIが商品を正確に見つけ、推薦しやすい環境が整いつつあります。

なお、公式記事はグローバル向けの発表であり、日本での各AIチャネル・決済・チェックアウト提供可否は個別確認が必要です。

※ 日本国内での対応について
本稿で紹介するShopify Spring '26 EditionおよびSalesforce Agentforce Commerceの内容は、主に米国・グローバル向け公式発表に基づいています。日本国内での利用可否、対応AIチャネル、決済手段、Merchant of Record、個別機能の提供時期は、各社の契約条件・製品SKU・地域別提供状況によって異なる可能性があります。日本企業が導入を検討する場合は、最新の公式ドキュメントおよび各社担当窓口で確認してください。

日本のEC、そしてラックの取り組み

現在は海外市場が先行していますが、日本でも同じ流れが広がる可能性は十分にあります。そのとき、AIに選ばれるための準備を進めてきた事業者は、新たな販売チャネルをいち早く取り込めるでしょう。

「待ち」ではなく「備え」を

エージェンティックコマースの時代に向けて鍵になるのは、AIが理解しやすい商品データを整備し、安全に外部のAIサービスと連携できる仕組みを構築することです。これからは、人だけでなくAIにも選ばれるECサイトづくりが競争力につながります。

こうした基盤づくりは、ECシステムとセキュリティの両方の知見が欠かせません。筆者が所属するラックのECサービス部では、「セキュアECサイト開発サービス with DiaForce」や「Salesforce Commerce Cloud エクスプレス開発サービス」で培ったノウハウを生かし、プラットフォームを問わずAIチャネルへ商品を届けられる仕組みの検討を進めています。

ECサイトを訪れて商品を探すことが当たり前だった時代は、大きな転換点を迎えようとしています。近い将来、消費者は手元のAIに「これを買っておいて」と伝えるだけで買い物を済ませるようになるかもしれません。そのときに選ばれるEC事業者になるためには、今から備えを始めることが重要です。私たちも、エージェンティックコマース時代を見据えた情報発信とサービス開発を続けていきます。

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