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8月は夏季休暇のほか、会社によっては海外出張などが重なる時期です。さらに、9月には大型連休も控え、夏から秋にかけては行楽もビジネスも活発になるシーズンとなります。
そこで、この記事では旅先におけるホテルや空港、会議施設のWi-Fi、いわゆる「公衆Wi-Fi」と呼ばれるものの使用について、2026年7月末に新たに確認された攻撃キャンペーンを含めたいくつかの事例を基に、「一度立ち止まってみる」ことを念頭に置いた安全な使い方を提言します。また、災害時に緊急的に使用可能なWi-Fiについてもその機能をご紹介します。
先にお伝えしておきます。この記事では、「公衆Wi-Fiは使わない方がいい」ということは主張しません。便利なものは便利に、ただし、安全に使っていただけるための情報としてお届けします。
それでは見ていきましょう。
Wi-Fiにつなぐためにソフトや更新が必要?
ホテルや空港のWi-Fiにつなぐと、利用規約への同意などを求める画面が開くことがあります。この画面は、専門用語では「キャプティブポータル」と呼ばれています。名前は知らなくても、見たことがあるという方は多いのではないでしょうか。最近、この「キャプティブポータル」の機能が乗っ取られる事件が発生しました。
CaptiveCrunch
2026年7月31日、Microsoftは、旅行者などを狙った攻撃キャンペーン「CaptiveCrunch」を発表しました※1。2026年5月初旬以降、ホテルや会議施設などでキャプティブポータルを提供する機器そのものが侵害され、接続した人の通信が攻撃者の用意した偽の画面へ誘導されていたというものです。(図1参照)
利用者から見える光景は、利用規約などの同意画面が出るところまではそれほどおかしなものではありませんでした。しかし、そのあとに「ブラウザの更新が必要です」などと表示され、この指示に従うと、更新プログラムを装ったマルウェア(コンピュータウイルス)が送り付けられたのです。
少し複雑な別のパターンでは、画面に書かれた文字列をコピーして特定の場所に貼り付けて実行させるという「ClickFix」と呼ばれる手口が使われたことも確認されています。
公衆Wi-Fiが狙われるのは今に始まった話ではない
先にご紹介したCaptiveCrunchはごく最近の事例ですが、公衆Wi-Fiが狙われる攻撃自体は、古くから発生しています。
DarkHotel
2010年頃から観測されている、ホテルのネットワークを利用して出張中の特定の人物を狙った諜報活動です。アジア太平洋地域へ出張する企業の経営層のほか、営業や研究開発に携わる人も標的に含まれていました※2。
Evil Twin
2024年、オーストラリア連邦警察は、空港や国内線の機内などで正規の公衆Wi-Fiに似せた偽のアクセスポイントを設置した人物を起訴しました。この偽のアクセスポイントに接続した人は偽の画面に誘導され、メールやSNSのログイン情報を入力するよう求められたとされています※3。
CaptiveCrunchとあわせ、これらの事例には、施設側の設備が侵害されたものもあれば、単純に正規のWi-Fiに似せた別物を用意したものもあるなど、それぞれの仕掛けは細かな点で違います。しかしながら、以下の点が共通して確認されています。
3つの事例に共通していること
- ソフトウェアのインストールなど、接続とは別種類の操作を求めてくる
- 更新、修復、ログイン情報の入力など、特別な操作が必要であるように装う
- 旅先や一時的な滞在先など、手軽にWi-Fiを使いたいという動機につけ込んでいる
「何を求められたか」によって、一度立ち止まる
いずれの事例も、いまこうして冷静に記事を読んでいるうちは"怪しさ"を感じることができそうなものです。しかし、旅先あるいは出張先ではどうでしょうか。また、利用規約への同意ボタンの押下や部屋番号等の入力、メールアドレスの登録などが正規の利用手続きとして求められる公衆Wi-Fiも沢山あります。「何らかの操作を求められた」「入力画面が出た」というだけで偽物と即断するわけにもいきません。
しかしながら、次のような操作は公衆Wi-Fiに接続するためにしては少しだけ妙です。もし以下のようなものが求められたら、いったん立ち止まってみてください。
目にしたら立ち止まりたい、求められる操作や表示
- ①利用案内に存在していないアプリやソフトウェアなどのインストール
- ②突然表示される、OSやブラウザなどの更新・修復が必要だという案内
- ③証明書や構成プロファイルなどの追加
- ④再ログイン、デバイスコード、MFA(多要素認証)の承認
これらが表示されたからといって、必ず攻撃につながるとは限りません。公衆Wi-Fiの中には、専用アプリなどを利用するものもあります。ただし、いずれも端末やアカウントに大きな影響を与え得る操作です。施設やサービスの案内にない操作を求められた場合には、そのまま進めず、一度立ち止まって利用案内やスタッフの説明を確認することをおすすめします。
特に、以下のような操作が求められる時は厳重に注意してください。
極めて危険な要求
- PowerShell、コマンドプロンプトなど、コマンドを実行するアプリを開く操作
- Webページなどからコピーした文字列やコマンドを貼り付けて実行させる
このような操作が公衆Wi-Fiの接続に際して求められるのは極めて考えにくく、CaptiveCrunchの紹介で述べた「ClickFix」と呼ばれる攻撃手法に行き当たっている可能性が高い非常に危険なサインです。もしこのような操作が求められたら、他の回線を使用することを推奨します。
立ち止まったあと、どうする?
立ち止まって検証をし、公衆Wi-Fiを使うための条件をある程度クリアできたとして、そのあとどうするのがいいのでしょうか。正解はひとつではありません。
- ホテルのフロントや施設スタッフに、正しいWi-Fi名と画面を確認する
- 更新は、「いま表示されている画面」からではなく、OSの設定やアプリ側から行う
- どうしても判断に迷うときは、テザリングやeSIMを使用する
- 別の回線、例えばeSIMや海外ローミングの用意が事前にあるならば、自前の回線を使用する
施設の案内やスタッフの説明と一致していたり、ソフトウェアのインストールなど不自然で過大な要求でなかったりすれば、そのまま使うことも大事な選択肢のひとつです。
冒頭で申し述べたとおり、筆者は、公衆Wi-Fiを使うべきではないとは考えていません。危険・不審なシーンがあることを理解したうえで、便利なものを便利なまま使っていただければと考えています。自前の回線を用意しておくことの意味もそこにあります。
重要なことは、公衆Wi-Fiを積極的に避けるのではなく、迷ったときに無理に先へ進まずに済む「もうひとつの選択肢」を持っておくということです。
「00000JAPAN」は、ログインを求めない
「00000JAPAN(ファイブゼロジャパン)」は、災害時の安否確認や情報収集を支える仕組みのひとつです。2026年7月28日に発生した令和8年熊本地震でも、通信事業者各社が災害用統一SSID「00000JAPAN」を熊本県内で順次開放しました※4。
「00000JAPAN」は、災害の発生時にできるだけ多くの人がインターネットを使えるようにすることを最優先にしたものです。そのため、利用者登録やID・パスワードを入力する認証も行わないWi-Fiとして提供されます※5。
従って、もし「00000JAPAN」という名前のWi-Fiにつなごうとした際に、メールアドレスやSNSアカウント、ID・パスワードの入力、アプリのインストールを求められたなら、それは標準的な動きではありません。使用せず、そのまま接続を切る十分な理由になります。
無線LANビジネス推進連絡会も「00000JAPAN」と同じ名前を騙る偽アクセスポイントによるフィッシングに対して注意を促していますので、あわせてご紹介します※6。
なお、「00000JAPAN」は緊急時に直ちに接続できることを優先しているため、無線区間は暗号化されていません※7が、「だから使ってはいけない」ということではありません。重要なID・パスワードの入力や決済情報は扱わないといった用途に応じた使い分けが必要ですが、安否確認や災害情報の収集には躊躇せず使いましょう。
使う・使わないを、選べるように
ご紹介してきたように、公衆Wi-Fiが安全かどうかをその場で完全に見極めるのは簡単ではありません。それでも、「Wi-Fiにつなぐだけ」のはずが、ソフトウェアのインストールやコマンドの実行など特別な操作が求められたときは一度立ち止まってください。
スタッフに確認する。アプリの画面から更新を確認する。問題がなければそのまま使う。そして、どうしても不審さが拭えないときは使うことを見合わせ、別の回線に切り替える。一律に「これが正解です」と断じ切ることは困難ですが、この記事が旅先で公衆Wi-Fiを使う際の判断の一助となれば幸いです。
皆様、どうぞよい夏を。
参考
※2 Kaspersky, "The DARKHOTEL APT A STORY OF UNUSUAL HOSPITALITY"
※4 2026年7月28日熊本県熊本地方を震源とする地震に伴う00000JAPANの無料開放(熊本県内) | 一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【WiBiz(ワイビズ)】
※5 00000JAPANに関するお問い合わせ | 一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【WiBiz(ワイビズ)】(「Q.利用する上でセキュリティ上のリスクはないですか?」)
※7 00000JAPAN利用者の皆様へ | 一般社団法人 無線LANビジネス推進連絡会【WiBiz(ワイビズ)】
プロフィール
横尾 智嗣
元福岡県警察官。
2025年4月ラック入社。脅威情報の分析を担当。
2012年にサイバー攻撃特別捜査隊に従事したことを皮切りに、情報技術解析課技官、サイバー犯罪対策課特別捜査班・初動対処係長、一般財団法人日本サイバー犯罪対策センター派遣等のサイバー領域における警察業務を歴任し現職に至る。
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