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金融犯罪対策センター(Financial Crime Control Center:以下、FC3)の保科です。
FC3では金融機関の利用者や顧客を守ることを目的に、日々さまざまな金融犯罪への対策に取り組んでいます。
ニュースを賑わせる不正送金など巧妙化する金融犯罪の多くは、実はある程度限られた型の組み合わせで成り立っていることが多くあります。本連載では、こうした金融犯罪の手口をFC3マトリクスで体系的に捉え、対策の検討にどのように活用できるのかについて、事例を交えながら全6回で解説していきます。第5回の今回は、「サポート詐欺」についての考え方を解説します。
なお、第1回から第4回では、FC3マトリクスそのものの考え方や他手口をテーマに解説しています。ぜひ、ご覧ください。
サポート詐欺とは
本記事で解説する「サポート詐欺」とは、誰もが日常的に利用するPCやスマートフォンを狙う、身近で巧妙なサイバー犯罪です。突然表示される偽のウイルス警告画面によって利用者の不安を煽り、偽のサポート窓口へ電話をかけさせて修理代金を名目に金銭を騙し取ったり、遠隔操作を悪用してインターネットバンキングから不正送金を行ったりします。
具体的な手口としては、Webサイトの閲覧中に「ウイルスに感染しました」などと表示された偽の警告画面を表示した上で、警告音を発生させるなどしてユーザーの不安を煽ります。被害者は不安に駆られるまま、警告画面に表示されている偽のサポート窓口に電話をかけてしまいます。偽のサポート窓口で電話を受けた犯罪者は被害者とコミュニケーションを取りながら、言葉巧みに修理したように装います。最後に、ウイルス感染の復旧サポート対応に要する料金という名目で、金銭を詐取します。
以前はプリペイドカードを購入させてプリペイドカード番号を入手させる手口が多かったですが、近年は、ウイルス対策ソフトのインストールと偽って遠隔操作ツールをインストールさせて被害者のPCからインターネットバンキングにアクセスし、不正な送金をするなどして金銭を得る手口が増加しています。
警察庁によると、このようなサポート詐欺手口による2025年の認知件数は1,048件(前年比476件減、31.2%減)、被害額は14.9億円(同4.8億円増、48.1%増)となっており、認知件数は減少しているものの、被害額は増加しており、1件当たりの被害額が増加していることが確認できます。2026年の認知件数は5月末時点で590件となっており、2026年1月の認知件数69件が2月以降は毎月100件を超えており、2025年を上回るペースで増加しています。
※ 令和6年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)
※ 令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値版)
また、IPA相談窓口へのサポート詐欺の相談件数は、2025年第三四半期を底に増加に転じ、2026年は前年同期を上回る水準で推移しており、今後も被害の拡大が予想されます。
※ 情報セキュリティ安心相談窓口公開レポート | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構より
2024年には、被害額が1億円に達するサポート詐欺も発生しています。本事案では犯罪者の指示に従って操作しているうちに会社の預金口座へのアクセスを許してしまい、犯罪者に不正送金されてしまいました。サポート詐欺は個人を狙う犯罪というイメージがありますが、企業も例外ではありません。特に経理担当者等がだまされて被害者となってしまう場合には、被害額が高額となるケースもあるため、企業においてもサポート詐欺への対策が必要です。
次章では、この「サポート詐欺」について、FC3マトリクスを用いて犯罪者の手口を具体的に見ていきましょう。
「サポート詐欺」におけるFC3マトリクス
FC3マトリクスでは、金融犯罪における攻撃の流れを犯行の準備から実行、資金化に至るまで段階ごとに分解し、「リソース準備」「偽装コミュニケーション」「不正ログイン」「追加認証突破」「不正取引実行」「資金化」といった複数のフェーズで整理しています。犯罪者は、これらの各フェーズにおける手口を単独で用いるのではなく、複数を組み合わせることで攻撃を成立させています。そのため、特定の手口や個別の対策のみを切り出して議論するのではなく、攻撃全体の流れを俯瞰し、どのフェーズにどのようなリスクが存在するのかを把握することが重要です。
実際のFC3マトリクスの「サポート詐欺」の手口は、以下の図のような構造です。FC3マトリクスは犯罪ライフサイクルに沿って、「不正の開始(リソース準備・偽装コミュニケーション・不正ログイン)」から、「不正取引の実行(追加認証突破・不正取引実行)」、「犯罪収益の捻出(資金化)」の各段階において、犯罪者がどのようなアクションを取るのかを整理しています。「サポート詐欺」の手口であれば、犯罪者が橙色でハイライトした項目のアクションを実行することを示しています。
※ 2026年8月時点のFC3マトリクスに基づく整理例であり、今後のアップデートにより内容が変更される可能性があります。
FC3マトリクスに基づき、「サポート詐欺」における犯罪の流れを見ていくと、本手口特有のアクションとして、被害者が自ら操作をしてしまっている点が確認できます。
まず、「偽装コミュニケーション」のフェーズでは、犯罪者はインターネットでの不正広告を用いて警告画面を表示する自身のサイトへ被害者を誘導します。架空の飲食店を装った広告や、「進む」「閉じる」などサイトの操作ボタンに見せかけた広告、思わずクリックしたくなる過激な見出しを使った広告など手口はさまざまです。目的はただ一つ、利用者にクリックさせることであり、内容の真偽は一切問われません。
その後の「不正ログイン」、「追加認証突破」のフェーズでは、ウイルス除去や感染状況の確認に必要な対応であると信じ込ませ、被害者自身にインターネットバンキング等にログインさせたり、遠隔操作ツールをダウンロードさせたりします。これは、サポート費用の支払いを装って犯罪者の口座へ送金させるほか、遠隔操作によって不正送金を実行するための準備でもあります。
最後の「不正取引実行」のフェーズでは、修理費の請求として被害者自ら犯罪者の口座へ送金させるほか、犯罪者が遠隔操作をして勝手に送金したり、プリペイドカードを被害者に購入させたりするなど、複数の手口を組み合わせて金銭を詐取します。被害者が指示どおりに対応しただけと思っていても、その一つ一つの操作が犯罪の実行につながってしまう点が、サポート詐欺の恐ろしさです。
FC3マトリクスを用いた対策検討
サポート詐欺への対策についてFC3マトリクスを用いて解説します。
「偽装コミュニケーション」のフェーズでは、不正広告へのアクセスを防ぐことが重要です。そのためには、サポート詐欺とはどのようなものかを理解し、「偽の警告画面が表示された際は電話をかけずに画面を閉じる」といった基本的な対処方法を継続的に周知する必要があります。また、不正広告そのものを減らす取り組みとして、広告掲載サービスへの通報や誘導先サイトのテイクダウン、他にもGoogle Safe Browsingへの登録等が有効です。広告事業者側でも対策は進んでおり、Googleでは、生成AI(Gemini)を活用した不正広告の検知や、広告主確認強化、ディープフェイク広告への対策などを進めています。
また、同フェーズの「偽サポート/コールセンターへの架電」においては、偽サポート窓口へ電話をかけないことも重要です。表示された電話番号をそのまま信用せず、インターネットで電話番号を検索して不正利用されている番号ではないか確認することや、警視庁の防犯アプリ「デジポリス」を活用したりすることで、詐欺電話への接触リスクを低減できます。国際電話番号が連絡先に記載されていることもありますので、国際電話を普段使わない人は、通信事業者の国際電話利用休止サービスを利用しておくと安心です。
「追加認証」や「不正取引実行」のフェーズでは、犯罪者が被害者を誘導し、自ら送金や認証を行わせようとします。例えば、プリペイドカードを購入させる手口に対しては、コンビニでダミーカードを用意し、店員が声をかけることで被害を未然に防ぐ取り組みも行われています。しかし、近年主流となっている遠隔操作ツールをインストールさせ銀行口座から不正送金する手口では、犯罪者と被害者だけで一連の操作が完結してしまいます。本人の端末から正規の操作として送金が行われるため、従来の対策だけでは防止が難しくなっています。
そのため、被害者と犯罪者がコミュニケーションを取ること自体を事前に防ぐか、遠隔操作で不正送金を実施・現金化のタイミングで防ぐことが重要です。個人ができる対策としては、前述の防犯アプリをインストールしておくことや、安易にWeb広告をクリックしないことが挙げられます。企業などの組織単位では、遠隔操作ツールの利用を制限・監視するなど、事前の対策がこれまで以上に重要です。
さらに、万が一遠隔操作を許してしまった場合でも、「不正取引実行」や「資金化」フェーズで被害を食い止めることは可能です。送金先口座や送金先の変更、不自然な送金額や送金先地域などの異常を検知し、不正送金や現金化を防ぐことで被害の低減が狙えます。
さいごに
今回の記事では、FC3マトリクスを用いて「サポート詐欺」の手口を整理し、犯罪者の犯行をどのように捉えられるのか、そして対策の検討方法を解説しました。
FC3マトリクスで手口を可視化することで、犯罪者がどのようなアクションを組み合わせて被害を成立させているのかを体系的に把握できます。さらに、各フェーズに対する対策を整理することで、自社の対策が不足しているポイントや、優先的に強化すべき領域を具体的に検討できるようになります。犯罪の手口が巧妙化・複雑化する今だからこそ、「どこで防ぐか」という視点を持つことが、効果的な対策につながります。
今回の連載では、近年大きな被害をもたらしている金融犯罪をメインに、さまざまな手口についてFC3マトリクスを用いて解説してきましたが、次回はいよいよ最終回です。近年も深刻な被害が続く「特殊詐欺」を取り上げ、犯罪の流れを整理するとともに、被害を防ぐための考え方を解説しますので、ぜひご覧ください。
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