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急増する金融犯罪の手口をFC3マトリクスで読み解く(4)~「投資詐欺・ロマンス詐欺」編

金融犯罪対策センター(Financial Crime Control Center:以下、FC3)の海老原です。
FC3では金融機関の利用者や顧客を守ることを目的に、日々さまざまな金融犯罪への対策に取り組んでいます。

ニュースを賑わせる不正送金など巧妙化する金融犯罪の多くは、実はある程度限られた型の組み合わせで成り立っていることが多くあります。本連載では、こうした金融犯罪の手口をFC3マトリクスで体系的に捉え、対策の検討にどのように活用できるのかについて、事例を交えながら全6回で解説していきます。第4回の今回は、「投資詐欺・ロマンス詐欺」についての考え方を解説します。

なお、第1回から3回では、FC3マトリクスそのものの考え方や他手口をテーマに解説しています。ぜひ、ご覧ください。

「投資詐欺・ロマンス詐欺」とは

本記事で解説する「投資詐欺・ロマンス詐欺」とは、犯罪者がSNSやメッセージアプリ等を使って被害者に接近し、時間をかけて信頼感や恋愛感情を抱かせて、金銭を詐取するタイプの金融犯罪を指します。

これまでの3回の連載で取り上げてきた口座乗っ取りの手口とは異なり、被害者が犯罪者を信じ込んで自ら犯罪者の指定した口座に送金等をしてしまう手口です。相手を信じ切ってしまっているため、気が付くまで相手の求めるまま何度も送金を繰り返してしまい、被害が非常に大きく膨らんでしまう傾向があります。また、正規な手続きを踏んで自ら送金を行っているため、金融機関側でも被害を見分けることが困難という特徴もあります。

※ 送金以外にも、電子マネーや暗号資産での送金を求めてくる場合もあります。

近年被害が急増しており、2025年には投資詐欺の被害が1,288億円(前年比148%)、ロマンス詐欺の被害が546億円(前年比136%)となり、合計で1,834億円もの被害が発生しており、非常に深刻な状況となっています。金融機関にとっても被害防止は、特に重要な課題となっています。

SNS型投資・ロマンス詐欺の年次被害額
SNS型投資・ロマンス詐欺の年次被害額
警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について(確定値)」より作成

次章では、この「投資詐欺・ロマンス詐欺」について、FC3マトリクスを用いることで犯罪者の手口がどのように整理できるのかを具体的に見ていきましょう。

「投資詐欺・ロマンス詐欺」におけるFC3マトリクス

FC3マトリクスでは、金融犯罪における攻撃の流れを犯行の準備から実行、資金化に至るまで段階ごとに分解し、「リソース準備」「偽装コミュニケーション」「不正ログイン」「追加認証突破」「不正取引実行」「資金化」といった複数のフェーズで整理しています。犯罪者は、これらの各フェーズにおける手口を単独で用いるのではなく、複数を組み合わせることで攻撃を成立させています。そのため、特定の手口や個別の対策のみを切り出して議論するのではなく、攻撃全体の流れを俯瞰し、どのフェーズにどのようなリスクが存在するのかを把握することが重要です。

実際のFC3マトリクスの「投資詐欺・ロマンス詐欺」の手口は、以下の図のような構造です。FC3マトリクスは犯罪ライフサイクルに沿って、「不正の開始(リソース準備・偽装コミュニケーション・不正ログイン)」から、「不正取引の実行(追加認証突破・不正取引実行)」、「犯罪収益の捻出(資金化)」の各段階において、犯罪者がどういうアクションを取るのかを整理しています。「投資詐欺・ロマンス詐欺」の手口であれば、犯罪者が橙色でハイライトした項目のアクションを実行することを示しています。

投資詐欺では、犯罪者はSNSや動画配信サイトなどに「必ず儲かる」「初心者でも安心」といった詐欺広告を掲載し、被害者を誘導します。広告に興味を持った被害者がコンタクトを取ると、犯罪者グループが参加しているグループチャット等に案内されます。犯罪者はグループチャット内で投資実績や投資手段を紹介しながら、時間をかけて信頼関係を築いてきます。十分に信用させた段階で投資を勧め、被害者自身にインターネットバンキングを操作させて、犯罪者が指定した口座へ送金させます。その後も、利益が出ているように偽装し、追加投資を促しますが、被害者が利益を確定して出金しようとすると、理由をつけてそれを拒み、最終的に連絡がつかなくなることで被害が発覚します。

ロマンス詐欺では、犯罪者が不正に入手した名簿やマッチングアプリ、SNSのダイレクトメール等を通じてターゲットにコンタクトを取ってきます。その後、時間をかけながら、恋愛感情を利用して信頼関係を築いてきます。信頼関係が構築されたところで、「将来のために一緒に投資しよう」「困っているので助けてほしい」といった言葉で、投資話や金銭支援を持ち掛けてきます。犯罪者を信じ切っている被害者は、要求されるまま、自ら犯罪者が指定した口座に振り込んでしまいます。その後も、様々な理由をつけて繰り返し送金を求めてきます。最終的には犯罪者側と連絡がつかなくなり、被害が発覚します。

これらの詐欺に共通するのは、巧みな心理操作で相手を信用させる「ソーシャルエンジニアリング」が使われていることです。犯罪者は、焦らず時間をかけて信頼関係を築き、被害者自らの意思で送金するよう誘導します。被害者は犯罪者を信用してしまっているため、自分が被害に遭っていることが認識できないことも多く、発覚が遅れ、被害が拡大する要因ともなっています。

投資詐欺・ロマンス詐欺をハイライトしたFC3マトリクス
投資詐欺・ロマンス詐欺をハイライトしたFC3マトリクス
※ 2026年4月時点のFC3マトリクスに基づく整理例であり、今後のアップデートにより内容が変更される可能性があります。

FC3マトリクスを用いた対策検討

FC3マトリクスを参照しながら、投資詐欺・ロマンス詐欺の対策について考えてみましょう。

まず準備段階では、犯罪者は個人情報を含む名簿や、SNS、動画サイト等への詐欺広告出稿、ダイレクトメールやマッチングアプリを利用してターゲットにコンタクトします。「簡単に稼げる」「資産運用をサポートします」といった魅力的な言葉で関心を引き、被害者自らコンタクトを取らせることが狙いです。これらを防ぐためには、プラットフォーム事業者による詐欺広告の排除や不正なアカウントの利用停止に加え、利用者側も詐欺の可能性があることを認識して、安易にコンタクトを取らないことも重要であり、その周知や啓発も重要です。

この手口の最大の特徴は、被害者が犯罪者を信用し、自ら送金してしまう点です。不正ログインやマルウェア感染とは異なり、送金は正規の端末やIPアドレスから本人の意思で行われるため、金融機関が通常の不正送金として見抜くことは容易ではありません。しかし、急に多額の送金や出金が発生したり、これまでの関連が見られない送金先への多額の送金が発生したりと、通常とは異なる送金の特徴に気付くことができるかもしれません。そのような観点を踏まえたモニタリングによる不正取引の検知は有効です。

また、犯罪収益の受け皿となる不正口座を早期に特定し、利用を停止することも重要です。すでに被害が発生し不正利用が判明している口座や、モニタリングで検知した不正利用が疑われる口座の情報を金融機関間で共有して、送金を遮断することで、犯罪グループの資金回収を阻止できます。

このように、投資詐欺やロマンス詐欺は、本人が操作した正規の取引であるため、一つの対策だけで防ぐことは困難です。被害者への接触から送金、犯罪収益の回収まで一連の流れを捉え、各フェーズで対策を重ねることが被害防止の鍵となります。FC3マトリクスを用いることで、こうした攻撃の流れをフェーズごとに整理し、どこに対策を講じれば効果的かを俯瞰的に把握できます。個別の事例や対策だけでは見えにくい攻撃全体の構造を可視化できるため、より実効性の高い対策の検討につながります。

さいごに

今回の記事では、FC3マトリクスを用いて「投資詐欺・ロマンス詐欺」の手口を整理し、犯罪者の犯行をどのように捉えられるのか、そして対策の検討方法を解説しました。手口を一連の流れとして可視化することで、自社の対策が不足しているポイントや、優先的に強化すべきフェーズを具体的に把握できます。被害が拡大し続ける金融犯罪だからこそ、個別の事例ではなく、攻撃全体を俯瞰して対策を考えることが重要です。

今後の連載でも、近年大きな被害を発生させている金融犯罪をメインに、さまざまな手口についてFC3マトリクスを用いて解説していきます。次回以降は、「サポート詐欺」や「特殊詐欺」を取り上げ、手口の整理や対策の考え方についてご紹介する予定です。ぜひご期待ください。

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