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デジタルアイデンティティは、インターネット上で「あなたがだれか」「本当に本人か」を確かめるための情報のまとまりです。学校の名簿に名前だけでなく学年や学籍番号などが載っているように、他の人と区別したり、本当に本人かどうかを確かめたりするための情報が含まれています。
仕事でも私生活でも、買い物、連絡、申請など多くの行動がオンラインに移りました。その結果、便利さと安全の両方に直結するデジタルアイデンティティをどう作り、どう守り、どう管理するかが今まで以上に問われています。
デジタルアイデンティティの定義とは?
デジタル庁が公開する「デジタル社会推進標準ガイドライン」※1では、デジタルアイデンティティを単なるユーザIDにとどまらず、オンラインで本人性を確認・判断するための情報や仕組みを含む概念として位置づけています。
デジタル空間で個人を識別する情報
デジタル空間で個人を識別する情報とは、オンライン上で特定の個人を一意に特定できる情報の集合を指します。例えば、会員番号やメールアドレスのように、同一組織内で他者と重複しない識別子がその土台です。
ただし、識別できるだけでは足りません。なりすましを防ぐには、その人が本当に本人かを確かめる材料も必要です。ログイン時の確認、サービス間での情報の受け渡し、記録の残し方まで含めて設計してはじめて、デジタル空間での本人確認が成り立ちます。
日本でも、国の情報システムを作る共通ルールの中に、トラスト(信頼)とデジタルアイデンティティに関するガイドライン群が位置づけられています。デジタル庁は、政府情報システムの設計・運用と、セキュリティやデータ連携と合わせてガイドラインを整備しました。
属性情報の組み合わせで構成する要素
デジタルアイデンティティは、名前や生年月日、住所のように静的な属性と、ログイン時刻、使用端末、操作パターンのような動的な属性があります。これらを組み合わせることで、本人らしさのより確かな判断が可能となります。
例えば、同じIDでログインがあっても、普段と異なる国や地域からのアクセス、普段と異なる端末、短時間での大量操作が重なると、本人ではない可能性が高まります。逆に、普段どおりの端末と時間帯で、通常どおりの操作だけなら、本人の可能性が高いと判断できます。
このように、静的な属性と動的な属性を合わせて評価することが、現実的なセキュリティの基盤です。本人確認の精度を高めるうえでは、個人の同意だけに頼るのではなく、データ保護やプライバシーを確保するための仕組みそのものを強化していくことも重要です。
アカウント管理と本質的に異なる点
アカウント管理と表現する場合、それはユーザID作成、削除、パスワード再発行といった作業を指すことが多い傾向にあります。つまり、「そのシステムにアクセスできるかどうか」を管理することが中心です。
一方でデジタルアイデンティティの管理は、単なるログイン情報の管理にとどまらず、「だれであるかを確認する(身元確認)」、「本人であることを確認する(認証)」、「その結果を他サービスと共有する(フェデレーション)」、それらの記録の残し方まで含めて、本人性を保ち続けることが目的です。つまりデジタルアイデンティティの管理は「ユーザのアイデンティティを中心に据えた横断的な管理」であると言えます。
例えば、同じ人が複数のサービスを使うとき、サービスごとに別々のIDが増えるほど、権限のズレや消し忘れが起きやすくなります。逆に、本人を中心に情報と権限を整理できれば、異動や退職のような変化にも追随しやすくなります。
実際に、国際的なガイドラインでも対象範囲は広がり続けているのが実情です。米国国立標準技術研究所(NIST:National Institute of Standards and Technology)が公開したデジタルアイデンティティに関するガイドライン(SP 800-63 Revision 4)※2では、身元確認プロセスにおける詐欺対策の強化、ディープフェイクなど偽造メディアへの対応、同期パスキーの統合、本人が管理するウォレットとの連携といった要素が新たに求められています。
こうした動きからも、デジタルアイデンティティとは単なるアカウントの台帳ではなく、変化する脅威と利用形態に合わせて本人性を守る仕組みであることがわかります。
なぜ今デジタルアイデンティティが重要なのか?
クラウド活用やリモートワークの普及により、従来の境界型防御だけでは安全を保てなくなっています。ゼロトラストの考え方が広がるなか、信頼の起点としてのデジタルアイデンティティの重要性が増しているのが現状です。
ここでは、デジタルアイデンティティの必要性の高まりと、DX推進を支える認証基盤の統合について解説します。
境界型防御の限界とデジタルアイデンティティの必要性の高まり
境界型防御は、社内ネットワークと外部の間に防御線を設け、入口を固める発想に基づいています。一方で、業務システムがクラウドへ拡大し、端末もスマートフォンやタブレットなど多様化が進んだ現代では、守るべき入口を一か所に集約することが困難になっています。つまり「境界」自体があいまいな存在になっており、「境界で守る」という発想自体が成立しにくくなってきたということです。
このとき攻撃者が狙いやすいのがIDです。IDを奪えば、正規のユーザとして振る舞えてしまうからです。ゼロトラストの考え方が広がる背景には、こうした環境変化があります。
実際に、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)はゼロトラスト移行を検討する組織向けの実践ガイド※3を公開しており、デジタル庁も政府情報システムへのゼロトラストアーキテクチャ適用方針を示しました。境界だけで守るのではなく、IDを中心にそのアクセスが正当なものか否かを確かめ続ける方向へ、官民ともに移行が進んでいます。
ゼロトラストで信頼の起点になる役割
ゼロトラストは、最初から何も信頼しない前提で守る考え方です。社内にいるから安全、社外だから危険と決めつけず、社内でも認証と認可を都度行い、データへのアクセスを厳密に確かめます。境界型防御が難しくなった現代ではこの考え方が重要になり、2020年にNISTのSP 800-207※4で定義が整理されたことも背景にあります。
ここで信頼の起点になるのがデジタルアイデンティティです。本人だと確かめられなければ、いかなる通信も信頼できないものとして扱われます。実際、ゼロトラストの実装においては、ID管理・アクセス制御・認証などアイデンティティ関連の機能が中核に位置づけられています。物理的な人の存在と、ネットワークやシステムをつなぐ役割を果たし、「あなたはだれか」「本当に本人か」を確認・保証することが、ゼロトラストの実現には欠かせません。
ゼロトラストでは、一度ログインすれば終わりではなく、アクセス中に端末や場所、操作内容が変われば、あらためて確認を行います。こうした継続的な検証を支えるためにも、「この人はだれか」を一貫して裏づけるデジタルアイデンティティが土台として欠かせません。
DX推進に不可欠な認証基盤の統合
DXは、紙や対面での作業をITシステムに置き換えるだけでは進みません。複数のサービスを横断して業務をつなぎ、データを活用し、手続きを効率化することが求められます。サービスごとにIDが分散していては、ユーザにも管理者にも支障が生じがちです。
IDが散在すると、パスワードの使い回しが起きやすくなり、権限設定の誤りも増加します。さらに、異動や退職のたびに複数のサービスでの設定を変更しなければならず、対応の遅れがセキュリティリスクに直結します。
認証基盤を統合する際には、コンプライアンスやプライバシーの観点から、やり取りする情報を必要最小限にとどめることが重要です。組織間でセキュリティ情報を共有する場面でも、個人を特定できる情報はできるだけ絞り、外部企業との連携時には識別子の難読化などの対策を合わせて検討しなければなりません。
認証基盤の統合は、ただ1つにまとめるだけではなく、必要最小限の情報で安全につなぐ設計が要点です。これができると、ユーザは迷いにくくなり、組織は守りと運用を両立させられます。
適切な管理がもたらす組織の利点
デジタルアイデンティティを適切に管理することで、守りが強くなるだけでなく、仕事の進み方も変わります。
ここでは、組織が得られる利点を、使う側と管理する側の両方から整理します。
シングルサインオンで利便性を向上
シングルサインオン(SSO:Single Sign-On)は、1回のログインで複数のサービスにアクセスできる仕組みです。サービスごとにIDとパスワードを入力する手間がなくなるため、ユーザの負担が軽減され、業務の流れも途切れません。
SSOの導入は、ユーザ側の利便性向上だけでなく、管理部門にとってもID管理の負荷を下げる効果があります。管理すべきパスワードが多いほど、同じパスワードの使い回しや、メモへの書き出しといったリスクの高い運用が起きやすくなるため、SSOによる集約はリスクを抑える効果があります。
一方で、SSOは認証の入口を一か所に集約するため、入口自体の防御がより重要です。多要素認証やアクセス制御の組み合わせによって、利便性と安全性を両立させることが求められます。
強固なアクセス制御で安全性を確保
アクセス制御とは、「だれが・どの情報に・どこまで触れてよいか」を定義し、制御する仕組みです。デジタルアイデンティティの管理においては、本人確認の強度と合わせて、アクセス権限の範囲をきめ細かく設計することが重要です。
アクセス制御を体系的に行う考え方がIAM(Identity and Access Management)です。IAMを導入することで、企業内のユーザアカウントを一元的に管理でき、情報漏えいや不正アクセスのリスクを低減できます。
IAMの主な機能は次の通りです。
- ユーザアカウントの管理
- 認証・認可
- プロビジョニング(アカウント作成や権限付与の自動化)
- IDフェデレーション(外部サービスとのID連携)
- 監査用レポートの作成
適切なアクセス制御は、外部からの不正アクセスだけでなく、内部の不正操作や人為的なミスに対しても抑止力として機能します。
管理コストを削減し運用効率を高める
ID管理の負担は、アカウントの初期作成時よりも、その後の維持・変更で大きくなります。入社・異動・兼務・休職・出向・退職、昇格・降格などのイベントが発生するたびに、権限の追加や削除、確認作業が必要になるためです。ID管理を人手で個別に対応していると、作業時間の増加だけでなく、削除漏れや過剰な権限付与などミスが生じがちです。
ID管理の不備は、情報漏えいに直結するリスクとなりかねません。IPAが発表した「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」※5によれば、営業秘密の漏えいルートとして最も多かったのは外部からのサイバー攻撃などに起因するもので36.6%でした。次いで現職従業員などのルール不徹底が32.6%、金銭目的の持ち出しが31.5%でした。外部攻撃・内部不正の双方が上位を占めており、退職後にアカウントが残っていたり、異動時に不要な権限が引き継がれたりすることは、いずれの漏えいルートにとっても温床になり得ます。
ID管理不備のリスクを低減するには、人事手続きと連動してIDの発行・変更・停止を自動化し、手作業を最小限にすることが有効です。対応漏れが起きにくくなるだけでなく、管理部門の工数も圧縮でき、コスト削減と運用効率の向上を同時に実現できます。
正確なログ収集で統制を強化する
ログとは、いつ・だれが・何をしたかを時系列で記録したものです。デジタルアイデンティティと操作ログが正確に結びついていれば、各操作の責任の所在が明確になり、問題発生時の原因特定も迅速に行えます。また、監査対応においても必要な記録を素早く抽出できるため、対応にかかる時間と労力を大幅に削減できます。
IAMにはレポート作成機能が備わっており、アクセス権限の一覧や利用状況を可視化できることも特徴です。これにより、定期的な権限の棚卸しが容易になり、不要な権限が放置されたままになるリスクも早期に発見できます。
管理不備が招くセキュリティのリスク
デジタルアイデンティティの管理に不備があると、組織は様々なリスクにさらされます。被害は情報漏えいにとどまらず、法令違反による制裁や、認証基盤そのものの停止による業務への波及にまで広がる可能性があります。
不正アクセスによる情報漏えいの拡大
IDが奪われると、攻撃者は正規のユーザになりすまして組織内部に侵入します。クラウドや業務システムが相互に連携している環境では、1つのIDの侵害が他のサービスへ連鎖的に波及し、被害範囲が一気に拡大しかねません。
情報漏えいが発生した場合、次のように影響は多方面におよびます。
- 被害者への損害賠償
- 企業の信用低下に伴う業績悪化
- 事故対応にかかる時間とコストの増大
- 漏えいした情報を悪用した二次被害
- さらなる不正アクセスやWebサイト改ざん
IDを中心とした防御の設計が不十分な場合、被害は短時間で拡大し、事後の封じ込めも困難になります。
プライバシー保護に伴う法的リスク
デジタルアイデンティティには、個人に結びつく情報が含まれます。収集する範囲が広がるほど、漏えい時の影響は大きくなり、取り扱いを誤った場合の法的責任も重大です。
個人情報の保護においては、本人の同意さえとれば良いということではなく、制度や技術の両面からプライバシーを確保する仕組みを整えることが重要です。法令の名称や具体的な要件は国・地域によって異なりますが、共通する原則として、利用目的を明確にしたうえで収集すること、必要以上に保持しないこと、保護の方法を説明できることが求められます。
デジタルアイデンティティの管理とは、利便性のために情報を増やすことではなく、必要最小限の情報を安全に扱う設計を徹底することがポイントです。
認証基盤の停止による業務停止リスク
認証基盤は、すべてのサービスへのログインを支える入口です。認証基盤が停止すると、正当なユーザであってもシステムにアクセスできなくなり、業務が全社的に止まるおそれがあります。可用性の観点における課題として、SSOによって入口を集約した環境では、利便性が高い反面、障害発生時の影響範囲も広くなることが挙げられます。
また、SSOの認証情報が侵害された場合には、連携するすべてのサービスに被害が波及するリスクもあることに注意が必要です。リスクに備えるためには、多要素認証の導入によるログインの強化、IPアドレス制限によるアクセス経路の限定、高い可用性と実績をもつ製品の選定などの対策を組み合わせることが重要です。
専門家が推奨する具体的な運用手法
デジタルアイデンティティを安全に運用するには、原則に基づいた具体的な仕組みが欠かせません。日々の運用で、なりすましを許さず、権限を適正に保ち、変化に追随する必要があります。
多要素認証でなりすまし被害を防ぐ
多要素認証(MFA:Multi-Factor Authentication)は、パスワードだけに頼らず、異なる種類の確認手段を組み合わせることで認証の強度を高める方法です。スマートフォンへの通知による確認、指紋や顔などの生体情報、セキュリティキーなどの要素を加えることで、パスワードが漏えいしても突破されにくくなります。
フィッシング耐性の高い認証として注目されているのが、WebAuthn(Web Authentication)に代表される方式です。端末側が接続先の正当性を技術的に検証するため、人の判断に頼ることなく偽サイトを自動的に識別できます。
フィッシングメールのリンクからIDとパスワードを入力してしまった場合でも、認証プロセスの中で接続先が正規のものかどうかが検証されるため、不正ログインを防げることが特徴です。
最小権限の原則でアクセス権を絞る
最小権限の原則とは、業務に必要な範囲に限定して権限を付与する考え方です。利便性を優先して広い権限を与えてしまうと、万一IDが侵害された場合に、攻撃者も権限の範囲で自由に行動できてしまいます。
ゼロトラストの基本的な考え方でも、データやリソースへのアクセスは原則として禁止し、適切な条件を満たした場合にのみ必要最小限のアクセスを許可するモデルが前提です。最小権限の原則は、アクセス制御の土台となる考え方です。
権限を絞ると、申請や調整の手間が増えるように感じられます。しかし、役割ごとに権限のセットをあらかじめ定義し、異動時にはセットごと差し替える運用にすれば、管理の負担を抑えつつ、侵害時の被害範囲を最小限にとどめられます。
ID削除を徹底する管理の仕組み
退職者や契約が終了した派遣社員、休職者のIDが有効な状態で残り続けると、だれにも使われていないアクセス経路、いわゆる幽霊アカウントが増えていきます。攻撃者は監視の目が届きにくい入口を狙う傾向があり、内部の不正にも悪用されかねません。
IPAの「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」でも、営業秘密の漏えいルートとして内部不正に起因するもの(ルール不徹底・金銭目的など)が上位を占めています。「組織における内部不正防止ガイドライン」(第5版)※6でも、不要となったユーザIDとアクセス権は直ちに削除する必要があるとされており、経営課題として組織横断的に取り組むことが求められています。
削除を徹底するには、担当者個人の注意に頼るのではなく、人事手続きと連動してIDの発行・変更・停止が自動的に行われる仕組みを構築することが重要です。入社から退職までのライフサイクル全体にID管理を組み込むことで、対応漏れを構造的に防げます。
状況に応じた認証で安全性を高める
状況に応じた認証とは、アクセス時の状況をリアルタイムに評価し、認証の強度を動的に変える考え方です。普段使っている端末から通常の時間帯にアクセスする場合はスムーズに通し、普段と異なる端末や深夜のアクセスには追加の本人確認を求めるような運用が該当します。
状況に応じた認証の運用を支える仕組みとして、リスクベース認証やコンテキストベース認証があります。IAMの機能として多要素認証やSSOと組み合わせることで、利便性とセキュリティ強化の両立が可能です。
パスキー導入でパスワードを廃止する
パスキーは、ユーザがパスワードを覚える必要のないログイン方法です。端末に組み込まれた仕組みを使って本人確認を行うため、入力ミスやパスワードの使い回しなどのリスクを大幅に低減できます。
パスキーは、フィッシング耐性の高い認証技術であるWebAuthnを基盤として発展した仕組みです。WebAuthnでは、端末側が接続先の正当性を技術的に検証するため、偽サイトへの認証情報の送信を防止できます。パスキーはWebAuthnの仕組みに加え、秘密鍵をクラウド経由でバックアップ・同期できる点が特徴です。
NISTのSP 800-63 Revision 4でも、同期可能な認証要素(同期パスキー)がガイドラインに統合されており、標準的な認証手段としての位置づけが明確になっています。パスワードが攻撃の主要な標的であり続ける現状を踏まえれば、パスキーはデジタルアイデンティティを守るうえで有力な選択肢です。
将来を見据えた最新技術の活用方法
デジタルアイデンティティを取り巻く技術は、認証の強化にとどまらず、個人が自分の情報を主体的に管理・活用できる仕組みへと進化しています。
ここでは、自己主権型の考え方について取り上げます。
自己主権型で個人の主権を取り戻す
自己主権型のデジタルアイデンティティ(SSI:Self-Sovereign Identity)とは、個人が自分の情報を自分で管理し、必要なときに必要な範囲だけを提示する考え方です。特定の事業者に情報が集中する構造を避け、本人が主導権を持って情報を扱える仕組みを目指しています。
一方で、EU一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)における「データポータビリティの権利」は、ユーザが自身の個人データをサービス事業者から取得し、別のサービスへ移転できる権利を定めたものであり、「データは個人に帰属する」という考え方を法的に裏付けています。
この2つはアプローチこそ異なるものの、いずれも「データの主権をユーザに取り戻す」という共通の目的を持っています。データポータビリティが既存サービス間でのデータ移転を可能にする"権利"であるのに対し、SSIはそもそもデータをユーザ自身が管理する"仕組み"を提供するものです。
その意味で、データポータビリティはSSI的な世界観への移行を後押しする概念であり、両者はデジタルアイデンティティのあり方を「サービス中心」から「ユーザ中心」へと転換していく流れの中で、相互に補完し合う関係にあると言えます。
またSSIに関連して、国内では、デジタル庁がトラスト・デジタルアイデンティティに関する施策の一環として、検証可能な資格情報(VC:Verifiable Credentials)やデジタルアイデンティティウォレット(DIW:Digital Identity Wallet)の利活用に向けた取り組みを進めています。※7
VCとは、デジタル空間において信頼できる形で属性情報をやり取りするための仕組みであり、学歴や資格、所属情報などを電子的な証明書として表現するものです。発行者の電子署名が付与された証明書で、改ざんの有無や発行者を機械的に検証できます。DIWとは、VCなどのデジタル証明書を保持するウォレットとして機能し、ユーザはそれらの情報を自ら管理しながら、必要な場面で必要な相手にのみ、必要な情報だけを選択した上で提示することを可能にします。
それらの国際的な相互運用性も視野に入れながら、自治体での先行実施を経て社会実装の拡大を図る方針が示されました。
また欧州では、EU Digital Identity Walletプログラムにより、加盟国の市民がデジタルIDを利用できる環境の整備が進められています。米国でも、標準仕様に基づくモバイル運転免許証の導入が複数の州で始まっており、自己主権型の考え方を実装に移す流れは世界的な潮流となっています。
守りの中心はデジタルアイデンティティ
デジタルアイデンティティとは、オンライン上で本人であることを裏づける情報の集合体です。その管理は、本人確認・認証・認可・サービス間連携・ログ記録までを一体として設計・運用することが求められます。クラウドの普及やリモートワークの定着により、組織のセキュリティにおける守りの中心は、ネットワークの境界からアイデンティティへと移行しました。
IAMがアカウントの統合管理や適切なアクセス制御によって情報漏えいや不正アクセスのリスクを下げます。シングルサインオンや多要素認証などを含む機能を活用することで、セキュリティと利便性を両立できます。
そしてこのIAMをクラウドで提供するサービスがIDaaS(Identity as a Service)です。
例えば、主要なIDaaSの中には数千規模のSSO連携テンプレートや、数百以上のプロビジョニング設定を備えたものもあり、短期間での導入が可能です。自社の働き方とリスクに合わせて、どこから整えるかを決めることが、デジタルアイデンティティ管理の第一歩となります。
参考情報
※2 SP 800-63-4, Digital Identity Guidelines | CSRC
※3 ゼロトラストという戦術の使い方 | デジタル人材の育成 | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
※4 SP 800-207, Zero Trust Architecture | CSRC
※5 「企業における営業秘密管理に関する実態調査2024」報告書 | 情報セキュリティ | IPA 独立行政法人 情報処理推進機構
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