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2025年5月22日、米国下院はわずか1票差(賛成215、反対214、棄権1)で「One Big Beautiful Bill Act」を可決しました。One Big Beautiful Bill Actは予算調整法案で、税制や社会保障制度などの改革案が中心ですが、1,100ページ以上におよぶ法案の中に「州レベルでのAI規制を10年間禁止する」という条項が含まれています。
法案では次のように規定されています。
「施行日から10年間、いかなる州または地方自治体も、AIモデル、AIシステム、または自動意思決定システムを規制する法律や規則を執行してはならない」
規制を禁止するということは実質的に、AIのリスクを注視せずに積極的にAI開発を進めることを容認することにつながります。欧州連合(EU)など世界がAIの規制化に向かう中で、米国が規制を禁じる方向に舵を切った背景には何があるのでしょうか。
もっとも、このAI規制条項は2025年7月1日に上院で圧倒的多数(賛成99対 反対1)で削除され、7月4日に成立した最終法には含まれていません。そのため、各州の既存および新規のAI関連法は引き続き有効なままです。
「モラトリアム」の背景に中国の影
One Big Beautiful Bill Actにおける「AI規制10年禁止」は、結果として実行されませんでした。しかし、AI活用の暴走につながりかねない、AI規制の一時停止措置は「AI規制モラトリアム」と呼ばれ、米国で課題視されています。
現在、カリフォルニア州など米国の複数の州で存在するAI関連法には以下のような規制分野があります。
- 雇用差別防止:AI採用システムでの偏見を防ぐ規制
- ディープフェイク対策:AI生成コンテンツの悪用防止
- 消費者プライバシー保護:AIによる個人データ処理の制限
- 住宅差別防止:AI貸付審査での差別禁止
- 医療AI規制:医療診断AIの安全基準
もし今回、AI規制10年禁止が実現していたらこうした規制が10年間凍結され、米国はAIによる雇用差別や消費者のプライバシー保護などさまざまな分野で、十分な議論を経ずに、AI規制のない状態になるところでした。
なぜAI規制から逃れたいのか?
AI規制モラトリアムの大きな推進力は、中国に対する危機感です。共和党議員らは、過度な規制がAIにおける米国の競争力を削ぎ、中国に技術的優位を譲る原因になると主張しています。
条項を組み込んだ下院エネルギー・商業委員会のガス・ビリラキス委員長(共和党・フロリダ州)は、「われわれの任務は市民の保護と米国のAIリーダーシップを維持すること」と主張し、「重い規制は次の偉大な米国企業の誕生を阻害しかねない。失敗すれば、AI分野での米国のリーダーシップを中国に明け渡すリスクがある」と述べています。
また、州や自治体ごとに異なる規制を全米一律的な規制にすることに、メリットがあるとの指摘もあります。しかし、一律的な規制化については審議されていません。
見逃せないのが、ハイテク業界における強力なロビー活動です。トランプ大統領の就任式では、OpenAI社の共同創業者兼CEOのサム・アルトマン氏、Google社とAlphabet社CEOのサンダー・ピチャイ氏、Apple社のCEO、ティム・クック氏、Meta社の創業者で会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグ氏など、ハイテク企業のトップが最前列に並んだ姿が話題になりました。Tech Policyの記事によると、下院のロリ・トラハン議員(民主党・マサチューセッツ州)は「この提案で恩恵を受けるのは、トランプの就任式で後ろに座っていたビッグテックのCEOたちだ」と皮肉を込めて批判したと言います。
OpenAIのアルトマン氏は上院公聴会で、EUのような規制を米国が採用することについて聞かれ、「EU型の規制は破滅的だと思う」と回答したと言います。なお、アルトマン氏は、トランプ大統領が就任した翌日に、AIインフラ構築プロジェクト「Stargate」をOracle社、ソフトバンク社とともに発表しています。3社のトップがトランプ大統領とともに収まった写真が、広く報じられました。
もし10年間の規制停止が実現していれば、彼らビッグテックは著作権やプライバシーの制約を受けずにデータを活用し、規制の足かせなしにAI開発を加速できる特権的環境を手にするところでした。
テック企業を優遇、市民は深刻な害にさらすと批判も
One Big Beautiful Bill Actが下院を通過した際には、各方面から反発が起きました。10年という期間設定について、「この技術の進歩速度を考えれば、3か月でも長い。10年は永遠に等しい」と批判したのは、下院のイベット・クラーク議員です。
実際、AI技術の発展ペースを考えると、ChatGPTは2022年11月に登場から3年も経過していませんが、社会を大きく変えています。その後も、各社から画像生成や動画生成など次々と新技術が登場し、消費者だけでなくビジネスでの活用の模索も始まっています。10年は長いという指摘もうなずけます。
投票前には、超党派の40州の州司法長官グループが法案の拒否を求める公開書簡を発表しました。「この法案は何百もの既存および審議中の州法に影響を与える」と警告し、「議会がAIの現実的な害に対して行動を起こさない中、州がこうした問題に対処する場となる可能性が高い。この法案は消費者に直接的な害をもたらし、多くの州で現在保障されている権利を奪い、州司法長官が消費者保護の職務を果たすことを妨げる」と主張しています。具体的には、ディープフェイク詐欺、雇用・住宅での差別、スパムの増加などが懸念されるとしています。
市民団体や専門家からの懸念もあります。例えば、The Registerの報道によると、Mozilla、分散AI研究所、電子プライバシー情報センター(EPIC)などを含む140以上の組織が「このモラトリアムは、企業が意図的に予見可能な害を引き起こすアルゴリズムを設計したとしても、その悪質な技術を作った企業が立法者や公衆に対して責任を負わないことを意味する」と警告しています。
人権団体のThe Leadership Conference on Civil and Human Rightsも「システムを実装前に安全で効果的であることを証明できれば、イノベーションと公平性は相反するものではない」として、適切な規制の必要性を訴えています。
上院で「削除」された背景
一部の人々の期待もむなしく、One Big Beautiful Bill Actの「AI規制10年禁止」条項は上院では削除されました。最大の障壁として、上院での投票前に指摘されたのは「バード・ルール」です。バード・ルールとは、予算調整法案に予算と直接関係のない条項を含めることを禁じるもので、AI規制モラトリアムは予算への直接的な影響が限定的であるため、削除される可能性が高いと見られていました。
AI規制をめぐる論争は、イノベーションを優先させるのか、消費者の保護かという米国の技術政策において永遠とも言えるテーマを浮き彫りにしています。同時に、連邦と州政府の権限をどう線引きするかという古くからの対立構図もにじみます。
余談ですが、法案に"One Big Beautiful"というニックネームがついた経緯は、2025年1月に開催された共和党の会合で、下院議長が「トランプ大統領は"One Big, Beautiful Bill"を求めている」と発言したことがきっかけだったそうです。トランプ大統領がかつてメキシコとの国境につくろうとしていた壁も「Big, Beautiful Wall」と呼んでいたので、この表現は彼のお気に入りなのでしょう。
AIの規制をめぐる議論は米国だけでなく、欧州、日本を含むアジアなどさまざまな国と地域がそれぞれの利害を絡めながら進めていくものであるため、今後も一筋縄ではいかないと考えられます。
プロフィール

末岡 洋子(ITジャーナリスト)
アットマーク・アイティ(現アイティメディア)のニュース記者を務めた後、独立。フリーランスになってからは、ITを中心に教育など分野を拡大してITの影響や動向を追っている。
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