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こんにちは。サイバー・グリッド・ジャパンの鈴木悠です。
2018年、37歳の時にセキュリティコンサルタントから研究職にジョブチェンジをしてから8年が経ちました。2020年に情報セキュリティ大学院大学の博士前期課程(修士課程)に入学後、同大学院博士後期課程に進学し、2025年9月に博士(情報学)を取得できました。
この記事では、子育て中の社会人が博士号を取得するまでの道のりについてお話ししたいと思います。
修士から博士へ
育児をしながら仕事で現状維持以上の成果を出すことに難しさを感じ、自身の強みを活かして仕事の生産性と希少性を高めるために研究職にジョブチェンジをしました。しかし、その希少性ゆえに研究の質が担保できないという課題に直面したため、半年後に大学院に入学することにしました。修士号を取得するまでの日々については関連記事をご覧ください。
実は、修士号を取得した後、「博士号も取得できたらいいな」という、かなり軽い気持ちで進学をしました。挑戦をしないことには、成功も失敗も得られないからです。進学の目的は、自身の研究の質を高めて良い研究論文を書くことであり、最終的に日本のサイバーセキュリティに貢献する有識者になるための足掛かりとすることでした。博士号を取得するためには各大学院において取得要件があるのですが、それもよく分かっていないまま走りだしました。
研究=推し活?
働きながら、そして子育てをしながら博士号を取得するためには、どうにかして研究時間を確保する必要があります。
博士課程の標準修業年数は3年ですが、これは2年半で博士取得要件の①単位取得と②査読付き論文2本以上を満たして中間審査をクリアし、残り数か月で③博士請求論文を仕上げるというスピード感です。社会人学生であり、かつ子育てをしながらという状況では、標準修業年数の3年で修了することは難しいと感じました。
このため、研究に集中できる環境を整え、研究を推し活と捉えることにしました。環境に関しては、研究したことを仕事でも大学院でも活かせるよう、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)に出向させていただくことにしました。プライベートの時間は、家事、育児、睡眠の時間は切羽詰まった状況を除いて極力減らさず、自分の時間を研究に全振りしました。
例えば、子どもが寝た後や土日に数時間やっていたゲームの年間プレイ時間は約800時間でしたが、それを封印して研究時間に充てました。自分の時間が研究に消費されているのではなく、「研究対象について日本で一番詳しくなるための推し活をしている」という趣味として捉えることにしました。
私の推しは何かというと、Disinformationです。日本語では偽情報と訳されるのですが、実際には虚偽と事実が混在しているものや、事実を歪んだ文脈で用いているものもあります。真偽という観点からの判断が困難であることから、Disinformationの特徴である怒りといった感情に焦点をあてて拡散を抑制する対策方法を提案しました。
博士になることの難しさ
博士の取得要件は大学院によって異なるのですが、概ね①必要な単位を取得し、②査読付き論文誌または国際会議に採択された論文が2本以上あり、③博士請求論文を提出して審査に合格することです。「査読」とは、投稿された論文について、その分野に詳しい専門家2~3名(主に博士)が論文誌に掲載または国際会議で発表する価値があるものかどうかを審査することです。つまり、博士号を取得するためには、国内外の同分野に精通した専門家からお墨付きがもらえるような論文を数本書かなければならないということです。
この査読が通る割合のことを採択率(accept rate)といいます。権威の高い論文誌や難関国際会議は採択率が10%未満であり、これは投稿された論文10本のうち採択されるのは1本程度であることを意味します。私は採択率30%前後の査読付き論文誌や国際会議に投稿したのですが、最初は不採択という結果でした。もちろん不採択の通知を受け取った瞬間は落ち込むのですが、ブラッシュアップして論文の質を高める良い機会だと気持ちを切り替えました。次の投稿先を決めて期限を設定し、論文全体を見直して大幅な修正を5か月かけて実施した結果、2回目の投稿で無事に採択されました。
博士課程では論文を英語で書くだけでなく、国際会議にて英語での発表と質疑応答をします。残念ながら、私は中学受験のあと中高大と内部進学をしたため、英語を勉強しなくても何とかなる人生を送ってきてしまいました。中学生英語から見直し、英文法の参考書を購入して毎日少しずつ勉強する時間を作りました。
論文は、日本語で書いたあとに有料の翻訳ツールを活用しながら英訳し、最後にプロに校閲を依頼してチェックしてもらいました。これは、英語が拙いという理由だけで査読に回されず、詳細を読まれることなく問答無用で不採択になる可能性があるからです。国際会議での質疑応答では、よく使われる英語の表現を覚えるなど、拙くても何とか伝える努力をしました。
最終的に、査読付き論文誌1本と国際会議2本が採択され、計3本の論文をまとめた博士請求論文「怒りがDisinformationの共有に及ぼす影響とその対策」で最終審査を合格することができました。
将来のキャリアプラン
私にとって博士号の取得はゴールではなく、「日本のサイバーセキュリティに貢献する有識者になる」という目標を達成するためのマイルストーンの1つでした。博士号が取得できたら5年以内にこの目標を達成したいと考えていたのですが、大学院で博士修了判定がでた5日後に達成してしまいました。2025年9月より、総務省サイバーセキュリティタスクフォースの構成員として参画しています。また、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST CRDS)でも戦略提案をさせていただきました。日本のサイバー空間におけるトラスト形成とレジリエンスの構築に貢献したいと考えています。
※ 総務省|サイバーセキュリティタスクフォース|サイバーセキュリティタスクフォース
※ 科学技術未来戦略ワークショップ報告書「コグニティブセキュリティー」|国立研究開発法人科学技術振興機構 研究開発戦略センター(JST CRDS)
これからの目標は、異分野との共同研究により多角的な視点を取り入れると共に、日本における課題を俯瞰的に捉えるための視座を高めることです。ラックに新卒入社をしてから20年が経ち、いま社会人生活の折り返し地点あたりにいます。挑戦し続けることで、いくつになっても成長できる人材でありたいですね。
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