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【対談:ラック西本 企業探訪】企業の根幹は人。ITはそれを支える - 株式会社コーセー 編(1/3)

各業界で活躍するIT部門のキーパーソンをラックの西本 逸郎が訪ね、IT戦略やサイバーセキュリティの取り組みについてざっくばらんに、"深く広く"伺う対談企画「ラック西本 企業探訪」。
今回は、商品開発や販売の現場も経験し、現在は自社のITの取り組みを積極的に対外発信されているコーセーの小椋 敦子さんにご登場いただきます。社員のチャレンジを応援するコーセーの社風やIT変革推進のコツまで、幅広くお話を伺いました。

若手を全社プロジェクトに参加させる理由

西本:小椋さんは情報統括部長として国内のグループ企業全般のITを統括するお立場ですが、最初は研究所勤務だったと伺っています。

小椋:はい。私は1988年、研究員としてコーセーに入社しました。大学時代は化学を専攻しており、配属先は研究所でした。同期で研究所に入所したのは9名で、女性は私を含めて4名でした。

西本:研究所ではどのような仕事に携わっていたのですか。

小椋:皮膚科学を中心に新商品の開発に従事していました。約1年半経ったときに、百貨店向け化粧品の新ブランドを立ち上げる新規プロジェクトの担当部署に異動したのです。

西本:研究職とはまったく違う分野ですね。どのような経緯で異動が決まったのでしょう。

小椋:当時、全社プロジェクトとして、百貨店で販売する専用ブランドを立ち上げる動きがありました。そのブランドは「皮膚科学に注目した商品」という位置付けでしたので、「研究所のメンバーが立ち上げに参画するのが望ましい」と、会社が判断しました。

西本:キャリアチェンジに対して不安はありませんでしたか。

小椋:もちろん、不安はありました。でも、異動の話を打診されたとき「うれしいです」と言ったのです。その時、上司からは「(異動を)嫌がるかと思っていた」と驚かれました。化学専攻で研究所に配属されたにもかかわらず、いきなり畑違いの仕事に放り込まれるわけですから、上司の想定は当然ですよね。でも私は、会社のチャレンジに参加できることがうれしかったです。

株式会社コーセー 執行役員 情報統括部長 小椋 敦子

西本:新規プロジェクトへのチャレンジを「うれしい」と捉える小椋さんもすばらしいですし、若手にチャレンジさせる会社もすばらしい。「長期的に人を育てる視点を大切にする」というコーセー創業者の理念が浸透しているからこそできることですね。

小椋:ありがとうございます(笑)。会社としても、研究所の若手社員を新規プロジェクトの担当部署に異動させる取り組みは初めてでしたし、百貨店向け化粧品の新ブランドを立ち上げることも初めてでした。つまり、私も研究所も、そして会社もすべてがチャレンジだったのです。

株式会社ラック 代表取締役社長 西本 逸郎

西本:私どもの会社では、そうしたチャレンジをさせ、見守る文化がなかなかできていません。実績の乏しい若手に対し「新しいプロジェクトに参加しないか」と打診するのは、上司として勇気が必要です。「何かあったらどうしよう」という不安のほうが先立ってしまうのですね。でも、人材を育成するには、会社自体がチャレンジを後押ししないと前に進めないですね。

研究員とビューティコンサルタントのアプローチの違いを実感

西本:新規プロジェクトに参加していかがでしたか。

小椋:商品を生み出すところから始まり、販売戦略を考え、実際に商品としてリリースし、お客さまの手に渡るまでの一連のプロセスを経験できたことは、とても貴重でした。そして、新ブランドの店舗オープン時にはビューティコンサルタントと一緒に店頭に立ち、自分達で作り上げた商品を直接お客さまに販売しました。店頭に立っていたのはごく短い期間でしたが、若い時に得たこの経験は、その後のキャリアを考える上でエポックメイキング的なものであったと捉えています。

西本:実際に店頭で販売されたのですね。研究所では得られなかった"気づき"があったのではないでしょうか。

小椋:ええ、山ほどありました。中でも「お客さまが抱えていらっしゃる課題を伺い、その解決策をご提案する」というアプローチは、研究員としてとても勉強になりました。

西本:具体的にはどのようなポイントが学びになりましたか。

小椋:研究で商品を生み出す場合、各成分の効能・効果を科学的に検証し、それを組み合わせて商品を作り上げます。ですから「この化粧水は肌の乾燥を防ぎます。なぜなら、保湿効果のある成分を配合し、それを活かすような処方開発がなされているからです」という説明になります。

しかし、店頭に立つビューティコンサルタントは、お客さまの肌悩み(課題)を伺うことからスタートします。そして「お客さまの課題を解決するには、何がいちばん良いのか」を起点に考えて、最適な商品をご提案します。つまり、お客さまのニーズをビューティコンサルタントが理解し、自分の課題のように考えて接客にあたるのです。

株式会社コーセー 執行役員 情報統括部長 小椋 敦子

こうした姿勢は、研究員のモノづくりとは必ずしも一致しません。誤解を恐れずに言えば、研究員が考えている(プロモーションしたい内容の)方向性と、販売で推奨する方向性が違うこともあります。場合によっては、お客さまのニーズを伺った結果、ビューティコンサルタントが勧める方向性が開発者の構想と異なることもあります。しかし、われわれのゴールはお客さまに満足していただくこと。販売現場ではそのゴールが明確なのです。

一方、販売する側から研究員のアプローチを見た場合、商品に対する研究員の"想い"がきちんと現場に伝わっていないことがあることも理解しました。

西本:どういうことでしょう。

小椋:百貨店で販売する専用ブランドを企画したとき、会社は「研究所と販売現場の距離を縮める」という方針を打ち出しました。以降、研究員は現場のスタッフに対し、「どんな想いで商品開発したのか」を訴求する試みがスタートしました。これは今でも続いています。

具体的には「なぜ研究員がこの商品を必要だと考えて開発に至ったのか」「どんな成分が配合されて」「どんな効果が期待できるのか」「それによってお客さまはどのような体験を得られると考えているか」といった研究員の"想い"を販売に携わるスタッフに伝えるのです。そうすれば研究員の"想い"を受け取ったビューティコンサルタントは、お客さまに対してその"想い"を伝えられるのです。私は新ブランドの立ち上げがきっかけで、「想いを伝えるリレー」が全社レベルで強固になったと感じています。

「想いを伝えるリレー」の真意

西本:「想いを伝えるリレー」という理念は、代々コーセーで受け継がれているのですか。

小椋:これは創業者が言い出した言葉です。コーセーはオーナー企業で、こうした理念や思想は脈々と伝承されています。現在の社長も「バトンリレーはダメだ」と口を酸っぱくして社員に説いています。

西本:「想いを伝えるリレー」と「バトンリレー」では何が異なるのでしょう。

小椋:バトンリレーは一人ずつ走り、バトンを渡したら(そこまでの走者は)走りを止めますよね。この方式だと自分が担当する部分は全力で頑張りますが、「ステップ バイ ステップ(段階的に事を運ぶ)」になってしまうため、プロジェクトが分断されてしまいます。「想いを伝えるリレー」は「ラグビー方式」で、全員が走りながらパスを回して一緒にゴールを目指すという理念です。

西本:なるほど。ラグビーの場合、パスをしたら即座に次に備え、さまざまな役割の中でボールを持っている人を支援するゲームですからね。

小椋:「想いを伝えるリレー」とは、プロジェクトに携わるすべてのスタッフが1つの想いを共有し、ゴールに向かうベクトルの方向性を合わせて協力することの大切さを説いたものです。当社の社長は、社員に気づきを与え、モチベーションをアップさせる唯一無二の存在です。われわれは日々、社長から学んでいるといってよいでしょう。

株式会社ラック 代表取締役社長 西本 逸郎

西本:「想いを伝えるリレー」の理念は、システム開発やセキュリティ構築にもつながる大切な発想ですね。システムの開発も「自分が担当した部分以外は知りません」というマインドが、業務間の分断を引き起こしてシステムのサイロ化を助長します。その結果、大切な情報が共有されず、手戻りや抜け・漏れが発生してしまうことが大きな課題です。

小椋:私は現在、情報統括部の部門長として国内のグループ企業全般のITを統括していますが、私の部門でも「バトンリレーは絶対にだめ」と言っています。

西本さんご指摘の通り、開発者は「システムを開発して終わり」ではなく、運用フェーズでも継続して開発者の立場でコミットする必要があります。システム稼働後に自らが改善点を見つけ出し、それを修正していく「PDCA」を回さなければいけません。

情報統括部では、開発者が運用も担当し、常に改善をしていくDevOpsデブオプスを、小規模ながらすべての業務で徹底しています。

西本:そのお話、次回で詳しく聞かせてください。

プロフィール

株式会社コーセー 執行役員 情報統括部長 小椋 敦子

株式会社コーセー
執行役員情報統括部長
小椋 敦子(おぐら あつこ)
1988年、研究所に研究員として入社。
翌年、全社の新規プロジェクトの立ち上げに参画。
出産後に同研究所・システム部門に異動し、2007年より現部門に移動。
2018年から執行役員情報統括部長として、情報統括業務を推進中。

株式会社ラック 代表取締役社長 西本 逸郎

株式会社ラック
代表取締役社長
西本 逸郎(にしもと いつろう)
1986年ラック入社。2000年にセキュリティ事業に転じ、日本最大級のセキュリティ監視センター「JSOC®」の構築と立ち上げを行う。様々な企業・団体における啓発活動や人材育成などにも携わり、セキュリティ業界の発展に尽力。

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