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かつて、世界中の優秀な技術者がアメリカで働く夢を叶える入り口が、「H-1Bビザ」でした。H-1Bビザとは、米政府が高度な専門技能を持つ外国人を対象に発給する就労ビザ(査証)です。これまでシリコンバレーの成功を支え、米ハイテク産業の優位性に貢献してきたビザプログラムが、いま大きな転換点を迎えています。
2025年9月19日、ドナルド・トランプ大統領は、新規H-1Bビザ申請に年間10万ドルの手数料を課すという大統領令に署名しました。従来の手数料が2,000ドルから5,000ドル程度だったことを考えると、実に20倍から50倍もの上昇です。
この政策変更は、対象となる外国人労働者の人生設計を変えてしまうのはもちろんのこと、企業の採用戦略、グローバルな人材獲得競争の地図を塗り替える可能性を秘めています。
企業の採用に打撃を与えた、年間10万ドルの手数料
H-1Bビザとは、専門知識を持つ外国人が米国で働くための就労ビザとして1990年に設けられました。企業がスポンサーとなって申請した後、抽選に当選しなければならない難しいビザです。対象者の約65%がITエンジニアなどコンピュータ関連の職種が占め、新規ビザ保持者の年収中央値は10万1,000ドル、経験豊富な労働者は13万5,000ドルに達すると言われています。
トランプ大統領は自国ファーストの方針を掲げ、米国人の雇用を守ることを最優先としており、移民に厳しい姿勢を示しています。日本でも話題になった、学生ビザ(F-1)の発給制限は記憶に新しいところです。今回の新しい手数料制度は2025年9月21日午前12:01に発効し、それ以降に申請される新規ビザが対象となります。既存のビザ保持者や更新には適用されないものの、新規採用を計画していた企業にとっては計画の見直しを迫られる規模と言えます。
特に影響が大きいのは、H-1Bビザの主要利用者である大手テクノロジー企業です。米国市民権・移民業務局によると、2025年度、アマゾン社は累計1万件以上のH-1Bビザ承認を受け、全米で最多となりました。これにタタ・コンサルタンシー・サービシズ社、マイクロソフト社、アップル社、グーグル社が続きます。仮にアマゾンが新規採用を継続すれば、新規採用に年間10億ドル以上の追加コストが発生する可能性があります。
この負担は、資金力に余裕のないスタートアップには致命的です。TIME誌に寄稿したテクノロジー企業の創業者ベン・ツヴァイク氏は、年収8万5,000ドルで機械学習エンジニアを雇用しようとしていました。しかし10万ドルという手数料は給与を上回ります。「彼女は優秀なエンジニアだが、10万ドルを支払って、ビザの費用を負担することは現実的ではなく、実行可能でもなかった。」と述べています。では、米国内に同じようなスキルを持つ人がいるのかというと、その数は十分ではないと指摘しています。「国内労働市場は2010年以降縮小しており、経済成長を続けるために必要な移民労働者によってのみ支えられている。これは高等教育を必要とする技術分野では特に顕著だ。」とツヴァイク氏は記しています。
国別で最も大きな影響を受けるのはインドです。IT業界はマイクロソフト、アルファベット社などインド出身のCEOが多いことからも想像できます。米国移民評議会によると、H-1Bビザ保持者の71%以上がインド国籍であり、第2位の中国(11.7%)を大きく引き離しています。CNBCの報道によると、インド外務省は政策発表直後に声明を発表し、「この措置は家族の混乱という形で人道的影響をもたらす可能性が高い。これらの混乱が米国当局によって適切に対処されることを期待する。」と米国側の対応を求めています。
IT業界において、インド人材は代替可能な労働力ではなく、技術開発の中核を担う存在です。米国では、コンピュータ・数学関連職における外国人労働者の割合は、2000年の17.7%から2019年には26.1%に増加しており、この成長を支えてきたのが主にインド出身の専門家です。今回の手数料引き上げは、米国のイノベーションの源泉に直結する人材の流れそのものを変えようとしています。
離陸直前に飛行機から降りるH-1Bビザ保有者も
「トランプ関税」で世界が右往左往したときと同じく、H-1Bの制度変更も大混乱となりました。施行は署名の2日後の2025年9月21日で、前日はパニックさながらの状況だったようです。当初、大統領令の文言が既存ビザ保持者の再入国にも適用されると解釈される余地があったため、対象者や企業の間に混乱が広がりました。
ちょうどその頃、筆者は米国テクノロジー企業のイベントに参加していました。CEOと談笑していたらこの話題になり、次のように話していました。
「早朝に人事部長と法務顧問から電話があった。新しい規則が出たばかりで、海外にいるH-1B従業員への対応を考えなければならないと言う。日曜の夜までに海外にいる対象者を全員帰国させる必要があるが、間に合わなければ10万ドルを支払うことになる。もちろん支払う覚悟はあるが、どこにどう支払うのかという情報すらない。金曜からずっと電話とメールだらけだ。」
そして、制度の適用範囲が明確になり、既存のH-1B保有者には適用されないことがわかります。「ありがたいことだが、こんな大混乱はなかなかない経験。」と、このCEOは苦笑まじりに話していました。
CNBCによれば、このIT企業のように、H-1Bビザ保持者を多く雇用するアマゾン社、マイクロソフト社、JPモルガン・チェース社、ゴールドマン・サックス社などが、同ビザ保持者に国内にとどまるように、国外にいる場合はすぐに帰国するように告げたと報じています。
なお、インドと米国との行き来に、ドバイ乗り換えを使うケースがあります。サンフランシスコ空港では、ドバイ経由のエミレーツ空港の便で、機長が「降りる必要がある人は、今降りてください。」とアナウンスがあり、乗客が降りるという異例の事態も発生したようです。
ウォルマートはH-1Bビザ対象の求人を一時停止、中東や中国は積極的に人材獲得
政策の影響は既に表面化しています。2025年10月21日、米国最大の民間雇用主である小売りのウォルマートは、H-1Bビザを必要とする候補者への求人提案を一時停止すると発表しました。CNBCやCNNの報道によると、ウォルマートは小売業界で最多となる2,390人以上のH-1Bビザ保有者を雇用しており、その大半はアマゾンと激しく競合するEC部門で働く技術者と言われています。ウォルマートの広報担当者は「顧客にサービスを提供するために、最高の人材の採用と投資に引き続き取り組む一方で、H-1B採用アプローチについては慎重に検討している。」と述べるにとどめています。
世界では、優秀な人材を巡る争奪戦が一段と熾烈になっています。中国政府は2025年10月1日から新しいビザカテゴリー「K-visa」を施行しました。米国のH-1Bビザのように、特に科学、技術、工学、数学(STEM)分野における若手の専門家をターゲットにしており、手続きの柔軟さやコスト面での優位性を押し出している点が特徴です。
さらに存在感を示すのが中東です。特に世界のAIハブを目指すUAEとサウジアラビアは、テクノロジー関連企業の誘致に向けて制度を大胆に整備しています。UAEは多様なビザの選択肢を、サウジアラビアはスキルベースの労働許可制度を導入しています。
反対派の主張
10万ドルという手数料の法的根拠についても議論が出ています。米国移民評議会の上級法務研究員アーロン・ライクリン メルニック氏は、ソーシャルメディアで「トランプ大統領はビザに10万ドルの手数料を課す法的権限を文字通り持っていない。」と断言しました。議会が行政府に与えた唯一の権限は、「申請処理のコストを回収するための手数料を課すこと」だけであり、10万ドルという額は、処理コストとは到底考えられない金額という主張です(TIME誌より)。
米国商工会議所は2025年10月16日、ワシントンD.C.の連邦地方裁判所に提訴し、新しいH-1B手数料は移民国籍法に違反していると主張しています。最高政策責任者のニール・ブラッドリー氏は声明で、「10万ドルというビザ手数料は、特にスタートアップや中小企業にとって、H-1Bプログラムの利用を費用的に不可能にする。」「H-1Bプログラムは、あらゆる規模の米企業が、米国での事業拡大に必要なグローバル人材にアクセスできるようにするために、議会によって明確に創設されたものだ。」と指摘し、政策が議会の意図に反すると主張しています。
興味深いのは、トランプ陣営内部でも意見が割れている点です。H-1Bを「米国人の仕事を奪う制度」と見る向きが多いものの、イーロン・マスク氏は自身がかつてH-1Bビザ保持者だったことから、2024年12月にXで「私が米国にいる理由、そしてSpaceX社、Tesla社、その他何百もの会社を強くした重要な人々の多くが米国にいるのは、H-1Bのおかげだ。」と述べました。CNNによると、元大統領候補のヴィヴェック・ラマスワミ氏なども同様の立場のようです。
プログラムの「悪用」か、それとも必要不可欠な制度か
トランプ政権は、今回の措置を米国の労働者を第一に考える政策として正当化しています。2025年9月19日の大統領宣言では、H-1Bプログラムが「本来は一時的な高度技能労働者を受け入れるために作られたにもかかわらず、意図的に悪用され、低賃金・低技能の労働力で米国人労働者を置き換えるために使われている。」と非難しています。
根拠として示されたデータでは、米国における外国人STEM労働者の数は、2000年の120万人から2019年には250万人近くへと倍増した一方、同期間のSTEM雇用全体は44.5%増にとどまっています。特に、コンピュータ・数学関連職では、外国人の割合が2000年の17.7%から2019年には26.1%に増加しました。
H-1BプログラムにおけるIT労働者の割合は、2003年度の32%から過去5年間は平均65%以上に増加しています。H-1Bを利用する企業の中には、ITアウトソーシング企業が含まれています。政府が問題視するのはコスト構造です。H-1B「エントリーレベル」のポジションは、フルタイムの正規米国人労働者と比較して36%のコスト削減になるという調査を示しながら、企業は安価な労働力を利用するため自社のIT部門を閉鎖し、米国人労働者を解雇し、低賃金の外国人労働者にアウトソースする、と大統領宣言で批判しています。一方で、冒頭に記したように、米国にその知識を持つ人が少ないという雇用主の声も見られます。
移民問題は、もはや対岸の火事ではありません。日本でも少子高齢化とIT人材不足が深刻化し、特定技能ビザの拡充など外国人材受け入れの議論が動き始めています。自国民の雇用保護と、経済成長に必要なグローバル人材の獲得のバランスをどう取るか、米国のH-1B改革で起こっている議論は注視したいところです。
プロフィール
末岡 洋子(ITジャーナリスト)
アットマーク・アイティ(現アイティメディア)のニュース記者を務めた後、独立。フリーランスになってからは、ITを中心に教育など分野を拡大してITの影響や動向を追っている。
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