- P01:事故前提社会におけるセキュリティ対策を考える
- P02:事故前提の組織が、圧倒的に強みを発揮できる
─ 具体的には、どのような事故を前提として考えておくべきでしょうか?
西本●では、実際に発生した事故を見てみましょう。下のグラフは、LACが2008年に緊急対応にあたった企業で発生した事故の統計データです。
「原因と手口」は、全体の41%がSQLインジェクション、15%がボットでした。
「被害内容」に目を向けると、情報漏えいと情報窃取で約半分です。主に過失・紛失が原因で情報が漏れたのが「情報漏えい」で、SQLインジェクションやボット感染が原因で情報が盗まれたのが「情報窃取」です。
─ SQLインジェクション攻撃の増加で、どうしても外部からの攻撃者に目が行ってしまいますが、内部犯行も比較的多く発生しているのですね。
西本●ええ、そうですね。内部犯行は、昔からコンスタントに発生しています。
競合に出し抜かれることが増えて何かおかしい、と気付いた社長からの依頼調査の例では、競合会社に転職した社員が、共用アカウントを利用して外部から侵入し、メールやサーバーをすべて盗み見ていたという事件もあります。
上層部しか知り得ない業務上の機密が漏れていた例では、ある上司のパソコンのハードディスクを、自分のパソコンにマウントしていた部下がいて、そこから情報が漏えいしていたケースもあります。部下は魔が差しただけかもしれませんが、パソコンの設定を部下にお願いしていた上司の問題でもあります。これは上司が部下を犯罪者にしてしまった例です。
また、出入りの業者が勝手に別のネットワークを作っていて、そこから情報が漏えいしていた事件もあります。
─ 実際の事件・事故の話を聞くと、ITだけでは予防しきれないものもありますし、人間の感情が引き金になっているものもありそうです。
西本●ええ、そのとおりです。事故前提で想定しておくべき脅威には、以下のようなものがあります。
- 事故、管理ミス、過失に分類されるもの
- 一般的に徘徊している外部の攻撃者
- 出来心程度の内部関係者
- 高度な技術と明確な目的を持った外部の攻撃者
- 明確な目的を持った内部関係者
「内部犯行」、特に「故意の内部犯行」に対する重要なことは、犯罪をエスカレーションさせない仕組みを作ることです。内部犯行が発生する組織というのは、監視が行き届いていなくて、犯罪がエスカレーションしてしまう傾向があります。上司には監督責任がありますから、部下が犯罪を犯すようなことがあれば、それは上司の責任です。つまり部下を犯罪者にしない仕組みが重要です。何かやったら絶対にバレてしまうことをあらかじめ知らせておくことで抑止しておいて、それでも防げない事故があるならば、それは「自爆的な犯行」です。
さらに「トレーサビリティの確保」、つまりシステム管理者や上司のPCを管理する人の作業トレースをしっかり取ることは重要です。PCI DSSにもありますが、管理者の作業はすべてログを取るべきです。管理者はシステムに対してあらゆる操作を実行できる権限が与えられていますが、決して神様ではないのだから、重要データへのアクセスを含め、その足跡をトレースしておくのは必須でしょう。
あと忘れてはいけないことは「ルールは形骸化する」ものであるということ。ルールを作るときは、「時限的なものにする」もしくは「ひとつルールを作ったら、ひとつのルールを削除する」というのはいかがでしょう。ついPCにいろんな対策を施すことばかりに目が行ってしまいますが、ルールを守るのはあくまでも「人」なのですから、人にも予防接種(教育や演習)を施すのも重要なセキュリティ対策です。
事故前提であるということは、組織に潜むリスクを定常的に把握することにつながるのと同時に、事後対応のためのセキュリティ対策に集中することでセキュリティコストを削減することにもつながります。事故の発生を問題とせず、発生後の対応を問題とする。そんな風に事後に力点を置いた運用ができる組織は、この不況において圧倒的に強みを発揮できると思いませんか。
しかし、こうしてみると「事故前提の対応強化」は、セキュリティだけではなく、私たちの生き方、会社運営も含めたパラダイムシフトなのかもしれませんね。
(終)
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西本逸郎(にしもといつろう)
プロフィール
取締役常務執行役員 最高技術責任者
サイバーリスク総合研究所 特別研究員
通信系ソフトウェアやミドルウェアの開発に従事。1993年ドイツのシーメンスニックスドルフ社と提携し、オープンPOS(WindowsPOS)を世界に先駆け開発・実践投入。2000年よりセキュリティ事業に身を転じ、日本最大級のセキュリティセンターJSOCの構築と立ち上げを行う。さらなるIT利活用を図る上での新たな脅威への研究や対策に邁進中。
情報セキュリティ対策をテーマに官庁、大学、その他公益法人、企業、各種ITイベント、セミナーなどでの講演、新聞・雑誌などへの寄稿等多数。






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