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事故前提で考える情報セキュリティ対策のススメ

度々、報道される企業の情報漏えい事件・事故。インターネットを経由した外部からの攻撃によるものや、社内や関連会社の内部犯行・内部過失など、原因や手口は多岐に亘ります。その度に企業は、原因の究明に奔走することになり、厳重なセキュリティ対策に取り組む必要に迫られます。金融危機の影響で、どの企業もIT投資が制限される中、セキュリティ対策にかかるコストは企業にとって悩みの種になっています。

緊急対応で目撃した数々の情報漏えい事故の実態を踏まえ、費用対効果の高い「事故前提」で考えるセキュリティへの取り組みについて、LACの取締役常務執行役員の西本逸郎が語ります。

事故前提社会の到来
西本逸郎

─ 2009年2月に内閣官房情報セキュリティセンターから、第二次情報セキュリティ基本計画が公開されました。その中に「事故前提社会への対応力強化」とありますが、なぜ今「事故前提」なのでしょうか?

西本●「事故前提への対応力強化」ということは、今はまだ事故前提社会ではないし、事故が発生したときの対応力があまりないということを言っているわけですね。

まず「事件・事故がゼロの社会」というのを想像してみましょう。病気のない社会、医療ミスのない社会、汚職のない政治、癒着のない行政、判断ミスのない運用、自動車・飛行機事故事故のない社会、産地偽装・食に関わる不祥事のない社会。いずれも残念ながら事故ゼロにする予防策はなさそうです。

例えば、医療ミスが100パーセント絶対に許されないとなったら、医者は手術をしなくなるかもしれません。もちろんミスを少なくしていく方策は重要です。しかし、完全ゼロを目指した瞬間に、実際に機能しないルールが作られたりして、社会はあっという間に硬直してしまうでしょう。産地偽装などの悪いことを考える人は、最近突然現れたわけではなく、昔からきっといたのだと思うのです。

事故が発生してしまった場合には、原因分析を含め粛々と対応にあたり、あらゆるケースの再発防止策を求めない。無理な再発防止策が硬直させる原因になることも多く、そうならないよう柔軟に対応できる社会を目指そうというのが、第二次セキュリティ基本計画の真髄だと考えます。

─ 「事故前提」を意識したセキュリティ対策とは、どういう対策になりますか?

西本●ちょっとした想定ですが、例えば予防策(事前対策)で60点を取ることは簡単そうでしょう? テストだって、ちょっと努力したら60点ぐらいは取ることはできますから。

ところが、セキュリティ予防策で80点を取ろうとするとそれなりに大変ですし、80点から先のプラス10点を積み重ねるのはとんでもなく大変で、対策コストも爆発的に急増し、費用対効果も下がります。さらに事故の不安を払拭するために、予防策で100点満点を取ろうとするのは莫大なコストもかかるし、現実的ではないでしょう。予防策で高得点を取ろうとすればするほど、つぶしておくべきリスクが細分化されて、コスト負担が大きくなる傾向があるのはお分かりかと思います。

ゼロを目指した予防策の積み上げは非効率(イメージ図)
(クリックで拡大)

一概には言えませんが、ある程度のセキュリティ対策を取り組んできた企業であれば、60点を超えるような対応になると、予防策よりも「事後対策」の方が圧倒的にコストが低いという傾向があります。実際、事故ゼロを目指した予防策の積み上げは非効率です。

金融系企業なら、予防策だけで80点を取る必要があるかもしれませんが、一般企業であれば予防策は目安として60点程度に留めておき、あとは事件・事故が発生した際に、迅速に発見・対応する方に力を注ぐほうが現実的だろうと思います。いずれにせよ、事件・事故のあとの事後策は、100点満点を取る覚悟は必要です。

事後対策の考え方

─ では、セキュリティ事故が発生した際の事後対策はどのように考えるのが適切でしょうか。

西本●端的に言えば「再発防止策をどう考えるのか」が重要です。

日本人のクセみたいなものかもしれませんが、事故が起きるとすぐにパーフェクトな予防策を取ろうと考えてしまいがちです。良かれと思って組み立てた予防策が、後に自分たちの首を絞めていることがよくありますよね。また、過剰な予防策は費用対効果があがらない上に、全体の機能不全に陥ることもあれば、慢心からくる気の弛みを招きやすいという傾向もあります。

極端な話、事故前提なら「予防策を考えない」というのが、再発防止策になる例もあるかもしれませんよ。事故そのものが悪いわけではないと考えて、事件・事故を起こしたら処罰はきっちりと行う、という考えが、圧倒的に効率が良い場合もあるでしょう。いずれにせよ、全員がしっかりルールを守っている中で、たった一人の不注意のせいで、がんじがらめにガードをかけられて効率が下がるというのは避けるべきでしょうね。

 
 

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西本逸郎(にしもといつろう)
プロフィール

取締役常務執行役員 最高技術責任者
サイバーリスク総合研究所 特別研究員

通信系ソフトウェアやミドルウェアの開発に従事。1993年ドイツのシーメンスニックスドルフ社と提携し、オープンPOS(WindowsPOS)を世界に先駆け開発・実践投入。2000年よりセキュリティ事業に身を転じ、日本最大級のセキュリティセンターJSOCの構築と立ち上げを行う。さらなるIT利活用を図る上での新たな脅威への研究や対策に邁進中。

情報セキュリティ対策をテーマに官庁、大学、その他公益法人、企業、各種ITイベント、セミナーなどでの講演、新聞・雑誌などへの寄稿等多数。

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